高校に入学してから仲良くなった子に、体育祭の振替休日は朝から映画見に行こうと誘われていたので、ちょっとだけおしゃれして、髪も巻いてメイクなんかもしちゃって、いつもとあまり変わらない時間に家を出た。駅への道のりを、ちょっとのんびり歩く。
あたりはみんな、同じ方向へ足早に向かっている人ばかりだ。疲れた背中のサラリーマンに、髪もメイクもスーツも乱れなく整えたキャリアウーマン。気だるそうに欠伸をする私服の人は、大学生かなぁ。
ふと人垣の中に見えた、若い男の人の後ろ姿がやけに気になった。小さな女の子と手を繋いでいる。ご機嫌そうに何かお話をしているその小さな人に相槌を打つ横顔は、よく見てみると実は最近見慣れてきた顔だった。
「真田くん?」
少し足早になるだけでその背中には追いついた。クラスメートで、先の体育祭では大活躍だった彼の名前を呼ぶ。名前、覚えてくれてなかったらどうしよう。
「おー、古川じゃん。おはよ。」
「おはよう。今日は野球部練習ないの?」
「今回の振替休日は休みだってさ。親も朝は忙しいし、妹を幼稚園に送ってくところ。古川は?」
「私は香織と映画に行くところだよ。妹ちゃん、なんてお名前なの?」
ほら名前、はじめましての人にはなんてご挨拶したらいいんだ?と真田くんが促すと、こちらの様子を伺っていた彼女は元気よくにっこり笑った。
「はじめまして真田名前ですよろしくおねがいします!」
「わぁ、初めまして。古川 名前です。元気にご挨拶できて偉いねぇ。」
一気に一息に挨拶の言葉を言う少女に、思わず顔が緩んだ。
えへへと笑う彼女の頭を、がしがしと真田くんの大きな手が撫でる。
「真田くんはお兄ちゃんだったんだね。うん、なんかそれっぽいかも。」
「そうか?まぁでも、親も忙しいし手伝うのは結構好きかもな。」
「そうなんだ〜、名前ちゃん、お兄ちゃん優しくていいねぇ。」
真田くんの手をぎゅっと握って懸命に歩く彼女に声をかけた。まるで夏の太陽のきらめきのような、眩しい笑顔がかえってくる。
「うん!名前ちゃんね、にーにだいすき!」
う、うわぁ〜可愛いすぎる。
良かったね、と声をかけようと真田くんを見上げると、彼は名前ちゃんと繋いでいない側の手で、真っ赤になった顔を隠していた。めっちゃ照れてるじゃん。
当の本人は、真田くんの手を握ったまま、我関せずといった雰囲気で、ちょっと下手くそなスキップをしていた。自由だなぁ。
「あー、古川、俺らこっちだわ。」
「あ、じゃあここでさよならだね。名前ちゃん、ばいば〜い。真田くんも、また明日ね。」
「名前ちゃんばいばい!」
「おー、じゃあな。」
真田くんと名前ちゃんは2人ともそっくりな笑顔で、大きく手を振ってくれた。しばらく2人の背中を見送る。
いいなぁ、ちいさい妹がいるんだ。真田くんの面倒見の良さのルーツはここなのかなぁ。
不意に、スマホが着信を知らせた。
発信先は香織で、現在時刻は待ち合わせ時間を少し過ぎている。
あっ、やばいかも。
電話の向こうで怒る友人をなだめながら、でも今日の出来事はちょっとだけ自分だけのものにしておこう、と心に決めた。
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