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その日、フラルダリウス家は喜びに満ち溢れていた。小さな命が2つ、生まれ落ちようとしていたからである。帝国歴1162年天馬の節20日、余寒の厳しいファーガス神聖王国に一足早く春の風が吹いた日のことだった。
先に取り上げられたのは、家族にとって初めての女児であった。産声を上げるとすぐに沐浴に連れられ、身を清めさせられる。清潔な衣類を着せられて初めて、彼女の家族となる者たちの元へと連れられた。

「ロドリグ様、グレン様、お一人目はご令嬢さまです。」

乳母を仰せつかった女性が、生まれたばかりの彼女を抱いて当主の元へ向かった。落ち着かぬ様子でいた父であるロドリグの腕へ、そっと収める。
おぉ、と破顔しながらロドリグは彼女を抱き留めた。父上、僕も見たいですとあどけなさの抜けない顔でグレンが覗き込む。

「グレン、お前にとっては妹になる子だ。しっかり守ってやってくれ。」

まだ細い腕に抱かせてやりながら、父らしい表情で語りかける。少年は、目をキラキラさせながら腕の中の小さな妹を見つめた。

「ロドリグ様、お二人目もお生まれになりました。男の子です。ご子息さまも奥さまもお元気そうですよ。」

報告の声に、当主は安心した息をもらした。死産も多い双子の出産で、2人の子どもも母親も元気に終えることができるというのは、とても喜ばしいことだったのだ。女神様に感謝だな、と呟いた彼は、浮き足立ちながら2人目の赤子を抱き上げる。一通り泣いて疲れたのだろう、彼は寝息をたてていた。

コンコン、と部屋がノックされた。返事をすると、使用人たちが装置を運んで来る。このフォドラを生きる貴族たちにとって、「最も」と呼んでも差し支えないほどに重視されている紋章を調べるための装置だ。間もなく準備された装置へ、その小さな手を向けさせる。
ブォン、と小さな音を立ててフラルダリウスの大紋章が映し出された。珍しい大紋章の発現に、ロドリグは目を見開く。

「大紋章か…。」

自身も、そして彼の長子も持たぬそれに、暫し見入った。期待と畏れと苦悩が入り混じった目線に、グレンは訝しんだ様子だ。

「父上?」

はっ、と我にかえる。すまんすまん、と笑って、場所を譲った。グレンは先程父がそうしたように、腕の中の赤子の手をとって装置へと翳した。
ブォン、と先程と同じ音がして、紋章が映し出された。しかしそれは先程までとは全く違う紋様で、その場にいた全員が戸惑う。

「これは…マクイルの紋章では…。」

誰かが呟いた。紋章学の本と家系図を持ってきて確認すべく、使用人が何人か慌ただしく部屋を出て行く。
ロドリグは、予想しなかった紋章をじっと眺めた。大紋章と呼んで差し支えないサイズのその紋様は、確かに頭の片隅でマクイルの紋章と記憶していたものと同じであった。思い起こせば、彼の奥方はその血筋を遡れば帝国の貴族に行き着く。さらに遡れば、きっとマクイルの紋章を持つ者がいるのだろう。

しかし、同じ日に生まれた双子が、2人とも大紋章を持つとは。数奇なこともあるものだとロドリグは思いを馳せた。

屋敷の外を風が吹き抜けた。鳥たちが囀る声が聞こえる。
赤子たちは眠り続ける。後に「シャーロット」と「フェリクス」と名付けられる彼らは、自身が背負う未来を何も知らない。


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