それから、幾年の月日が流れた。
大貴族の一家には珍しい温かい家庭の中で、シャーロットとフェリクスはすくすくと育っていった。
一家で唯一の娘であるシャーロットは蝶よ花よと育てられながらも優しい心を忘れない、誰からも愛される素直な少女へと育っていた。対してフェリクスはと言うと、自分よりも常に先を行く長兄グレンの背中をいつも追いかけ、幼いながらも鍛錬の真似事をして遊ぶのが好きな少年であった。2人は決して性格がぴったり合う姉弟というわけではなかったので喧嘩は頻発していたが、子ども特有の仲直りの早さで全てを解決していた。屋敷の中庭でちゃんばらごっこをしていたり、庭園で花摘みして遊ぶ幼い双子の姿はよく見られ、使用人たちや父母、兄の頬を緩ませていたという。
そんな彼らが一番楽しみにしていたのは、幼馴染であるほかの貴族の子どもたちとの交流であった。2つ年上のゴーティエ家のシルヴァン、ガラテア家のイングリット、そして王族ブレーダッド家の長男ディミトリとは、同年代ということもあって幼馴染と呼べるほどには定期的に会って交友を深めていた。
そんなある日のこと。子どもたちは王都フェルディアの王城を訪ねていた。チェスやトランプ遊びに飽きてきた頃、かくれんぼをしようと言い出したのはイングリットだった。賛成、賛成と子どもたちが沸き立つ。そうして鬼が決められ、隠れる役の子どもたちは蜘蛛の子を散らしたように王城の中へ散っていった。
最初の頃は、皆難しい所に隠れたりはしなかったのだ。甲冑飾りの後ろやタペストリーの裏、庭に置かれた樽の中。すぐに見つかる場所ばかりだったので、平和にゲームを楽しんでいた。だがしかし、より見つかりにくいところへ、とエスカレートしていくのが人情でもある。シャーロットが鬼になる頃には、手のつけられない状況だった。
「もーいーかーい?」
そう声かけたが、返事はない。シャーロットはその小さな足を踏み出して、城の中を探し始めた。
「フェリクス〜、イングリット〜、シルヴァン〜、ディミトリ〜。どこー?」
もちろん、応える者はいない。シャーロットは城のあちこちを覗き見た。食堂のテーブルの下、騎士たちの訓練所の槍立ての裏側、厩の藁の中。どこにもいない。広い王城を長い時間歩き回って体力も消耗してしまい、ここがどこだかも分からなくなってしまって、なんだか悲しい気持ちになってしまう。
このまま誰も見つからなくって、みんないなくなっちゃってもうずっと会えなくなっちゃったら、どうしよう。
そんなことを考えると、目から涙がぽろぽろとこぼれてしまった。こんな時に限って、あたりには城の使用人は誰もいない。広い城でひとりぼっちになったような気がして、シャーロットの目からは涙が止めどなく流れていった。我慢していたつもりなのに、ついしゃっくりあげる声が漏れる。ぐすぐす、ひっく、と声を詰まらせながら彼女は友人たちを探し歩こうとした。
「シャーロット…?」
後ろから声をかけられて振り向くと、困惑した顔のディミトリがいた。
「どうして泣いているんだ?」
「みんな、いなくて、もう会えなくなっちゃったら、どうしようって、」
うまく言葉が出てこないシャーロットを前にして、ディミトリはさっぱりわけがわからないといった表情ではあるが、とりあえず寂しかったのだということは察したようだ。
優しく涙を拭ってやり、手を取った。
「ほら、おいで。一緒に探しに行こう。」
そのまま手を引いて歩き出す。シャーロットは空いている方の手でもう一度涙を拭ってから、ディミトリについて歩いた。
小さな少年と少女が手を取って、友人たちの名前を呼びながら城を歩き回る。大人たちは微笑ましくその様子を見守っていた。その中には、ディミトリの父ランベール王も含まれていた。
表情を和らげた後、ふむ、と思案顔になる。その思惑が世に知れるのは、さらに数年後のことであった。
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