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「一生、幸せにするから。」

研ちゃんに力強く抱きしめられながら、耳元でそう囁く声が少し涙で滲んでいるのを感じ取った時、私はこの世で最も幸せだった自信があった。自分よりもかなり広い背中に手を回して、タキシードに顔を埋めながら、うんと頷く。
この人が私を幸せにしてくれると言うのであれば、私がこの人を、一生かけて幸せにする。心からそう誓ったのだった。


私と研ちゃんが結婚したのは、大学の卒業式を終えてすぐの、3月下旬の頃。桜が少しずつ蕾を膨らませ、もう少しで花開きそうな、ある麗かな春の日のことだった。私たちはまだ社会人にすらなっていなかったし、研ちゃんのおうちはあまり裕福ではなく、うちにも余裕があったわけではないから、身内だけのごく小規模な式だけ。それぞれの親兄弟と陣平ちゃんだけを呼んだ、こぢんまりとしたものだった。
新居だって、研ちゃんは4月から半年間警察学校に入校するのだからと大学時代から住んでいるワンルームから引っ越しせず、もう少しだけ住み続けることにした。そうして、私は萩原 名前として会社に就職し、研ちゃんは陣平ちゃんと連れ立って警察学校へと旅立って行ったのだった。

結婚してすぐの半年間の別居が寂しくなかったといえば嘘になる。いつも太陽みたいに明るく笑う研ちゃんが恋しくなかったとは言えない。あと、彼は女の子好きだから浮気してないかの心配も。そんな私を安心させるかのように、彼はしょっちゅう写真やメッセージを送ってきた。写っているのはたいてい陣平ちゃんと、あと3人。諸伏さん、伊達さん、降谷さんと言うらしい新しい友人たちと楽しく寮生活を送っているらしかった。たまに女の子が写っていたりもするけれど。でも、彼のことは長い付き合いの中で信頼を置いているので、多分口説く以上のことはしていないはず。ん?妻帯者が他の女性を口説くのってどうなの?
閑話休題。とにかく。
新たな友を得て、一回りも二回りも成長した研ちゃんと、新居を決めて家具を揃えて新しい生活を始めようとしていたところだった。

仕事中にスマホが震え、それが見知らぬ番号だったのを確認した時、今思い返せばなんだか嫌な予感はしていたような気がする。電話に出て、内容を聞いて、その後のことはよく覚えていない。気がついたら警察病院にいて、陣平ちゃんとお義姉さんの千速さんがそばにいた。千速さんは私を抱き寄せながら涙を流していて、陣平ちゃんは見たことないほど憎悪を込めた恐ろしい目つきで壁を睨みつけていた。

爆発に巻き込まれて死んだ研ちゃんは、肉片しか残らなかった。最期に顔を見ることすら叶わなかったのだ。
二階級特進で、研ちゃんは警部補になった。多くの市民や同僚の命を救ったことで、賞恤金が支払われた。そんなのいいから、研ちゃんを返してほしい。お金なんていらない。貧乏でも構わないから、2人で生きていきたかった。


一生かけて幸せにすると誓った人を、わずか7ヶ月と少しで喪うことになるなんて、私はもしかしたら世界で最も不幸な人間なのかもしれない。


ポケットのスマホは、バキバキになっていた。大学の卒業式で陣平ちゃんに撮ってもらった、研ちゃんとのツーショットがら待ち受け写真の、ちょうど真ん中にヒビがはいっている。こんなところまで、引き離すようなことしなくていいのに。
復讐の中でもう1人の友も命を落とし、もう2度と撮ることができない写真の元データが入っている古いスマホを、私は7年経った今でも手放すことができないでいる。


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