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数日前の休息日に探した、あの墨色ハチワレネコ。イエリッツァがフラ何とかと呼んでいたねこは今、足元でごろごろ転がっては伸びをしている。
あの時は、恐ろしい空気を纏ったイエリッツァが鋭い眼光であちこち見回しているのだと周囲が恐々していたらしい。夕暮れ時に漸く見つけたフラ何とかを抱えて、説教覚悟で慌てて彼の元へ行ったのだが、そこでイエリッツァは安心したのか軽く注意を受けるだけですんだ。しかしその後に見た彼の変貌ぶりについては忘れようと思う。
そして"ねこ探し"を未だ見つかっていない猫の脅威物"菓子探し"に切り替え、この休息日もあちこちを練り歩く。もうそろそろ街の方を探ってみてもいいかもしれない。
( ……でも、今日はここまでにしとこう )
先日の模擬戦後に指摘された癖の矯正を、早く始めなければならないのだ。
あの時に鮮やかな指揮をとりながら私の動きも見ていたらしいベレトは、模擬戦の反省会で「リルメは両利きになって槍を持とうか」と、まるで容易なことのように提案してきた。順次行うよりは同時進行が良いとのことで、最近は利き手ではない左手を日常的に使うようにしている。
「…うん…?」
訓練場の扉でさえ、左手だと心做しか重く感じる。これは確かに両利きを目指して左右の筋肉を均等に整えるべきなのかもしれない。と理解はしていても容易な矯正ではないのだから地道にやっていこう。
部屋で事前の柔軟は終えて来たので、早速ベレトの考案した手順を行おうと、場内に踏み切った。瞬間。
「っおい!?」
「!?」
ガキンッと不吉な金属音が響いて、咄嗟に視線を巡らせ素早く肩を引く。何かがシュッと二の腕を擦り、背後の扉に音をたててぶつかった。
「…な、何…」
カランと足元に転がったものを見下ろすと、刃の潰れた剣の鋒らしきものがある。まさかこれが飛んできたのだろうか。
「っの…猪めが!」
「!すっすまない!!怪我はないか!?」
なんでこんなものが自分目掛けて飛んできたのか。それは、こちらに駆け寄ってきた姿を見て薄ら察することができた。
「……ディミトリ?」
「リルメか!怪我は!?」
「いや、ないよ」
顔から爪先までをザッと見下ろしたディミトリは、膝に手を置いて深く息を吐き出した。
「…よかった……訓練用とはいえ、剣の鋒があの勢いで当たれば…ただでは済まなかっただろう…」
「そうだね…訓練中に折れちゃったの?」
「……その、つい、」
「ついもクソもあるか。体勢を崩しているにも関わらず、槍に体重を乗せて力ずくで反撃しようとしたら紋章が発動して俺の剣を折ったのだろうが」
模擬戦の際に彼の怪力ぶりは目にしている。初撃でいきなり太い木の幹を大きく削ったり、振り下ろされた槍が地面を抉ったりする程だった。その怪力に自重と紋章効果が上乗せされた反撃が、訓練用の剣を折ってしまったらしい。
訓練相手だったらしい彼が、どこか呆れと苛立ちを滲ませながら吐き捨てた。
「…なんか、今になってゾッとしてきた…」
「うまく避けなければ二の腕が削れていただろうな」
「こわっ」
「ほ、本当にすまなかった…!」
「いやいや、頭上げて。そんなに謝んなくていいよ」
「しかし、」
「もし、ここにいたのが私の妹で、その子が怪我してたら簡単には許さなかったけどね。実際には無傷な私がいるだけだ。訓練に失敗は付きものだし、そんな気にしないで」
僅かに顔を上げたディミトリに苦笑して手を振れば、彼は申し訳なさそうに眉を下げたまま頭を上げた。
「」
「うん…」
猪呼ばわり
フェリクス ディミトリ