今度こそ
飛雄の試合を見た。
準々決勝 対鴎台戦
侑先輩と治先輩、そして北先輩と一緒に見ていた。
終盤、日向君の戦線離脱がありそれでも鴎台に食らいついていたが彼らは負けた。
烏野高校
春の高校バレー全国大会
準々決勝敗退
「『結果が全て』や言うなら負けた
烏野の試合後、不服そうな顔でいた侑先輩と治先輩に北先輩はそう言った。あまりの物言いに私を含め三人で言葉を失ってしまった。
「勝負しに来てる以上、結果が全てで何の文句も無い。勝てへんなら『良い試合』も無価値かもな、けど―――筋肉ならいっぱいつけてきた。この先怖いもんなんかないわ」
北先輩は笑っていた。
“思い出なんかいらん”というけれど、それは決して消えたわけではないのだろう。北先輩の言わんとしていることが少し分かったような気がした。
「……俺らはこの先も北さんが怖い」
治先輩の言葉に侑先輩が頷いた。
私はそれを横目で見つつ、再びコートを覗き込んだ。そこにはすでに飛雄の姿はなかった。
三日目の試合は全て終了し、そろそろ戻るかといった先輩方に付いていく。
私は足取り重く会場の外へと向かっていた。
もう一度だけ飛雄と話がしたい。でも烏野は負けたばかりで、しかも日向君の体調も良くないようだった。きっと近くの総合病院に向かったのだろう。それならば飛雄を私の我儘に付き合わせるわけにはいかない。
「さっきから黙っとってどないした?」
「いえ、何でもありません。ホテルに戻りま——」
侑先輩に言葉を返す途中、突然腕を掴まれびっくりして声を失った。次いで名前が呼ばれ振り返れば着替えを終えたジャージ姿の飛雄がいた。
「こいつ、少し借りますね」
「えっ飛雄!?」
「ハァ!?」
「後でちゃんと返してな」
「若いってええなぁ」
キレる侑先輩、私を物扱いする治先輩、まるでお年寄りのような北先輩の言葉と共に送りだされ私は引かれるままに飛雄についていった。
撤収している学校も多く、そこまで人も多くない。先輩達とは離れたところまで連れて来られようやく手が離された。
「連絡先、聞こうと思って」
何を聞かれるかと思えば飛雄は不器用にそう言って携帯を取り出した。私も知りたかったのでその申し出は快く受け入れた。
「日向君は大丈夫?」
「OBの人が連れ添って病院に行ってる。まぁあいつのことだ、多分大丈夫だろ」
「そっか。日向君は飛雄の大事な相棒だもんね」
「相棒……?」
え、ここでなぜ疑問形なんだ。
連絡先を交換し終えた携帯を仕舞いながら私は飛雄を見上げた。
「烏野一年生コンビって言われてたじゃない」
「俺はあんな下手な相棒を持った覚えはない!」
「えぇ……」
「それにコンビなら俺とお前だろ。クラブチームにいた頃“ハヤブサコンビ”って呼ばれてたろ」
覚えててくれたんだ。てっきり私だけが覚えている過去の思い出だと思っていたのに。飛雄もまた“思い出”を消化してく質なのだろうか。
「そうだね。あのね、飛雄」
私自身の過去は消化した。
だから私と約束してほしい。
未来を思い描けるようになった私と、今度こそ———
「絶対にまたバレーをしよう」
飛雄は切れ長の目をまん丸にして、そしてくしゃりと笑った。
「あぁ。絶対にやるぞ」
私の中の時間が動き出す音がした。
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