「ところでさ、絶対1度はこれ聞いとこうって思ってたんだけど」

 こんな具合で切り出される長男の発言がろくでもないという事を、下の5人はそろって知っている。しかしツッコミなどは入れはしないし、どうせくだらないことだろうなと思いつつ耳を傾けるのも弟たちの役目であった。
 年の暮れ。忘年会という訳でもないが、いつものように六つ子全員で肩を並べ、居酒屋でだらだらと言葉を交わしながら酒を飲む夜間。長男おそ松の一言により、夢みる童貞たちの熱いトークが繰り広げられる事となる。

「お前らの理想のセックスってどんなの?」
「え、急になに」
「なになに?!AVの話?!」
「いやAVじゃなくて実際ヤるならって話。どんなシチュエーションがいいとか、このプレイが理想!とかさ、色々あんじゃん」
「ねーよ!それこそAVの見すぎだろ!」
「え、うそチョロ松。お前そういうの1番妄想してそうじゃん」
「俺どんな印象抱かれてんの?!」
「というか年の暮れに何聞いちゃってんのおそ松兄さん」
「年の暮れだからこそだろ〜?トド松。来年の抱負も兼ねてさ、皆で理想のセックス語ろうよ!」
「六つ子で理想のセックス語るとか頭おかしいでしょ……」
「はいはい分かってるよ、チョロ松はどうせアレだろ?猫耳プレイとかそんなのだろ?」
「ばっ、俺は……!」
「あ、僕もそれ思った。どうせ猫耳プレイでしょ」
「どうせって何だよ!猫耳プレイ最強だろーが!!」
「うわー本音出ちゃったよこの人」
「捻りも面白みもないしほんっとクソ童貞だよね」
「なっ……!そういうお前らはどうなんだよ」
「俺〜?俺はやっぱり制服だな!」
「制服?」
「ただの制服じゃなくって、夜の学校とかに忍び込んでさ……こう、昔ここで授業受けてたよね、わー懐かしい!とか話しながら段々気分盛り上がってく感じ?!あの頃はこんな事できなかったけど、今は……っていうのが最高じゃん!やっぱり制服プレイはサイコー!」
「いやそれ細かい上に限定されすぎだからね。同校出身の子しかできないじゃん」
「おそ松兄さんもしかしてまだあの子のこと好きなの?」
「……は?!」
「高校の頃片思いしてた子いたじゃん。その子のこと考えて言ってるんじゃないの〜?」
「べ、別に俺はそういうんじゃねーよ!」
「フッ……一途な愛、俺は悪くないと思うぜ」
「そういうカラ松はどうなの」
「俺か?そんなに聞きたいなら聞かせてやらなくもない」
「うわー絶対イタいよ!別にそんなに聞きたくないし!」
「場所はパークハイアット上海のスイートキング……」
「ほら出た入りからもうイタい!」
「何でわざわざ上海まで行った?!パークハイアット東京にもあるよ?!」
「ロマネコンティのグラスを傾けながら一人静かに夜景を眺める俺……そこに風呂上りのバスローブに身を包み恥じらう彼女が姿を現す……フッ、そこで俺は言うのさ。来いよ、今夜お前を俺の腕の中で百万ドルの夜景よりも輝かせてやる……ってな」
「イタいイタいよカラ松もうやめて!」
「イタい上に訳分かんないし!なに?!百万ドルの夜景よりも輝かせるってどういうこと?!」
「ロマネコンティってなにー?」
「到底カラ松兄さんには手が出せない高級ワインだよ、十四松兄さん」
「設定だけ細かくても中身が伴わなきゃどうしようもねーよな、クソ松」
「え……」
「お、なになに急に。一松もなんか理想のセックスとかあんの?」
「まぁ、ないこともない」
「一松兄さんもなかなかエグいの考えてそうだよねぇ」
「俺、別にシチュエーションとかそういうのにこだわりはないけど」
「ないけど?」
「とりあえずヤる1週間前からオナ禁する」
「ちょっと待って!それシチュエーションとか以前にすごいこだわりだよね?!」
「え……今僕たちセックスの話してるんだよね?」
「それで?肝心の本番はどういうのがいいの?」
「そういうのも特に細かいこと考えてないけど」
「ないけど……?」
「強いて言えば……ヒヒッ……生理中にナカに出したい」
「ごめん……かける言葉が見当たらない」
「いや、さすがにそれはまずくない?中に出したいのは分かるけど」
「分かるなよ!本当そろって最低だなお前ら!」
「はあ?何だよチョロ松、これぞまさに男の夢だろ。分かってないね〜これだから童貞は」
「いやお前も童貞だろ」
「んで、唯一語ってない末っ子の2人は?いいよ〜お兄ちゃんどっちからでも聞くよ〜」
「んー僕もそんなにシチュエーションとか設定にはこだわりないんだけど……」
「そんな事言ってドギツイの持ってるんじゃないの?」
「いやいや、僕は兄さんたちと違ってまともな思考してるから」
「どういう事だよこのドライモンスター」
「制服とか猫耳とかありきたりじゃない?生理中とかもありえないし、カラ松兄さんに至っては論外だし」
「え……」
「じゃあどういうのがいいんだよ!」
「そうだそうだ!言ってみろコラァ!」
「だから、僕はシチュエーションとかじゃなくてさ……とにかく、いっぱいご奉仕してもらいたいな、って」
「あざと!何それ!そういうのありなの?!」
「だいたいシチュエーションや設定にこだわったところでお互い気持ちよくないと意味なくない?僕のために頑張ってくれる女の子とか最高だし。あ、もちろん僕もちゃんと気持ちよくしてあげるよ」
「何でちょっと経験あるっぽい感じで語るの?言っとくけどお前も童貞だからなトッティ!」
「じゃあ最後は十四松か……」
「何がくるんだ……1番読めない……」
「まさにセックストークにおけるダークホース……」
「ベタに夜の千本ノック〜とかじゃないの?」
「で、どうなの?十四松兄さん」
「んー?んーとね、あはは」

 長々と続いた六つ子の奇妙なセックストークは、さも当たり前のように口にした十四松の一言によって、幕を閉じる事となる。

「僕は彼女が気持ちよければ何でもいいや」

次#
NOVEL
home
ALICE+