数分前に送ったLINEに対し、スマートフォンの液晶に通知されている「了解!待ってるね」という一言を、アプリを起ち上げるまでもなくロック画面で確認すると、僕はフリスクを口に放り込んで名前ちゃんの自宅へと向かった。
ふわふわと足が浮つくのを覚えながら、早くも征服欲で頭をいっぱいにし、ナニしてもらおうかな、なんてにやりと溢れる笑みを押さえつけてインターホンを鳴らす。

はーい、と、甘い声が拡声器を通してザラザラ響くのを聞くと、最後に息を整えた。ナニをするにしてもイニシアチブは取らないと。落ち着いて、余裕を持って、このドアが開いたら何も知らない瞳をきらりとさせる名前ちゃんに、何食わぬ顔で微笑むんだ。そう、思っていたのに。


「いらっしゃぁい…トド松くんっ……」

がちゃりと開かれた先にいた名前ちゃんは、口は舌ったらず、頬を紅潮させ、瞳はあやしいまま、アルコールの香りを仄かに漂わせていた。……明らかに、酔っていた。



飲んでるなら先に言って欲しかったー…というのはおくびにも出さずに、「お邪魔します」と玄関を上がると、ベッドのスペースが半分を占めているワンルームに足を進める。
盗み見るようにテーブルに視線を走らせれば、ボトルがほとんど空になっていた。これ、結構飲んでるよね!?
確かめようと自然に名前ちゃんの方を振り返ると、表情を見ることすらさせてもらえず、名前ちゃんはフラフラと僕に突っ込んできた。近距離戦は望むところ、というか今日の主旨である筈なのに、なんだか嫌な予感がするのはなんでだろうね……。


「ごめんねー……なんかクラクラしちゃって……」
「ううん、大丈夫だよ……でも、いつから飲んでたの?」
「えーっとぉ……夕方?」
「夕方!?今、11時だけど!誘ってくれればよかったのに……」
「トド松くん、バイトだと思ってた……なんだぁ、もっと早く会いたかったなぁ……」

目をとろんとさせて僕の頬を両手でさする名前ちゃんは控えめに言っても可愛いっていうか普通にエロくて、予定とは違ったけど、これから事致す分には全く支障がなかった。
つーか、もう普通に勃ってるよね。本当は口で大きくしてもらいたかったんだけど。とりあえず気持ちよくしてもらえればいっか。

僕は撫でるような手つきで名前ちゃんの腰を抱き寄せると、少しだけ首を傾けて囁いた。


「寂しかったんだ?」
「うーん……うん、寂しかった……」
「だから、一人でこんなになっちゃったんだね……」
「ん……あ……ダメ……」
「力抜けてるよ?……したかった?」
「えー……うん……ちょっと……」

ふにゃっと笑った名前ちゃんは僕に体を擦り寄せて僅かに踵を浮かせた。内心ガッツポーズを決める。求められてるなら、与えなくちゃね。もちろん、お返しもしてもらうつもり。
僕は、赤みの差した唇を外気で冷えた僕のそれで塞いだ。あっという間に熱は伝染して、アルコール以上に熱い舌が、口腔で暴れまわる。

くちゅ、ぴちゃ、とわざとらしく音を立てて、舐めて絡めて吸ってを目紛しくしながら、僕の腰を力なく握っていた名前ちゃんの手を取り、そっと硬くなっている僕のモノに押し付けた。
名前ちゃんは一瞬だけ瞼をぴくりとさせたが、それだけで、あとはこれといった反応も見せずに、唇を貪ることに執していた。え、てっきり恥ずかしがると思ったんだけど。

ちょっと意外に思っていると、更に名前ちゃんは僕がどうと言うまでもなく、パンツの生地にピタリと形を成している硬い輪郭を指先でつつつとなぞって、しばらく遊んだ後、手際よくベルトを外しにかかった。嘘でしょ、こんなにこなれた感じの子だったっけ……?

そんな動揺を絶対に悟られたくなかった僕は、お互いの唇を唾液が繋ぐ距離のまま努めて甘く訊ねる。

「もう欲しくなっちゃった?名前ちゃんって結構エッチな子なんだね……」
「んー……そうかなぁ…そうかも……トド松くん、見てると……したくなっちゃうの……なんでかなー…?」

ワインの渋味を吐息に混ぜて訊き返す名前ちゃん、ちょっとやばい。なにこれえっろ!なんだかもう理想とかそういうの無視してベッドに押し倒して早く挿れたくなってきた……。
いや、でも、どうせならこのふにゃふにゃとエッチな名前ちゃんが僕のモノを咥える表情を上から見下ろしたいよね……普段ごく普通の女の子である名前ちゃんが欲に溺れて夢中でしゃぶる姿とか最高だろ。

やっぱりどこまで行っても理想を求めてしまった僕は、名前ちゃんの小ぶりな顎を掴んで、気持ちだけ語気を強めて、言った。


「じゃあさ、口でしてみて」
「口……?」
「うん。上手に出来たら、ご褒美にいっぱい気持ちよくしてあげるから、ね」
「ふふっ……うーん…分かった」

顎を預けたまま子供っぽく頷いた名前ちゃんは、ストンと膝を落として、僕の腰の高さに顔を持っていくと、さっき外したベルトの隙間からチャックと共に、スルスルと下着ごとパンツを下ろした。

俄かに勃起した性器が現れれば、恥じらいも躊躇いも何もなく五本の指で包み、大きく開けた口でパクリと咥えるので、僕はまた動揺する。
すっごい今更なんだけど、この子非処女なの?これまで特に確かめることもなく、雰囲気から勝手に処女だと思い込んでいたんだけど……そ、そっか。ちょっとだけ、複雑。ほんのちょっとね。

しかし、そんなしょうもない雑念も、名前ちゃんがいよいよ本気でフェラをし始めて間もなく、快楽の波へと消え去っていった。

名前ちゃんはまずさっきまで僕と絡めていた舌で筋の走る全体に唾液を塗りつけて、それから弱い力で握った手を揉むように動かしながら、睾丸を優しく愛撫した。もうこの段階で早くも「はぁ……あ……」と情けない溜息が出る。

でも、そんなの序の口で、恐らく限界まで伸ばされた舌が下から上へとじれったく執拗に動くと、睾丸を撫で回していた指先を太ももに這わせて、直接的な刺激以上に背筋をゾクゾクさせれば、お次はカリと亀頭を丹念に舐め上げた。
ちょ、ちょっと、待って。これ本気で上手いじゃん。自慰では到底得られない目も眩むような甘い痺れが脳を犯す。

僕はどうにかなりそうな気をどこにぶつけていいか分からず、一心不乱に揺れ動く名前ちゃんの髪の毛をただ掻き回した。

そして、極め付けに息を吸い込んで深くまで僕のを咥え込むと、唇をきゅっと窄めてストローク。「んん……ふ……ん…っん……」と漏らす声に、じゅぼじゅぼと品のない音が聴覚に興奮をもたらして、長く短くを繰り返す動きに、あ、ちょっと、ほんっとに出る!待って!名前ちゃん!ストップ、ストップ!

「名前ちゃん……!」
「ん……んっ!」
「あ…………」

お、遅かったぁ……。僕が名前ちゃんを呼んだと同時に、ムズムズとせり上がった白いそれは、名前ちゃんの口の中で呆気なく散った。もちろん正確に測っていた訳じゃないけど、でも体感時間で三分くらい……え、本当に?嘘でしょ?

射精のそれとは別に頭を真っ白にしていると、ごくんと喉を鳴らした名前ちゃんは、相変わらずとろとろとした目で、酔っ払いらしく、飾り気のないまま、言った。

「もう、おしまいなの?」

いや、えっと……なんだっけ、何を最後に言うつもりだったんだっけ、僕。そうだ、これから一緒に気持ちよく……いや、無理だろ!なれねーよ!
そうして、ズタズタになったプライドの前で放心状態になった僕の口から飛び出した言葉は、ひどいものだった。

「う、うん……また今度」

じわじわと熱りが冷めていくモノに、ただただ惨めになっただけの夜は、ところがこれから更けていく。二回戦を挑むには、あまりにも分が悪かった。





*前
NOVEL
home
ALICE+