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それはまるで燃えるように赤い太陽のような
あるいは夏の日の向日葵のような
はたまた百獣の王獅子のような
とにもかくにも、私は彼、煉獄杏寿郎様に初めてお目にかかった際、人目見て心を奪われてしまったのだ
自身が風柱である不死川実弥様の継子という立場でありながらも
お天道様は笑わない
その日は随分と大粒の雨がしきりに降って止まない酷く冷え込む日だった
それはまるでお天道様が私の気持ちを代弁するかのように、滝のように涙を流して彼の死を弔っているかのように感じられた。
「苗字名前さん、」
「胡蝶様、」
炎柱の屋敷にぽつり、ぽつり、と人が行き交う。
今朝方いの一番にこの屋敷にお見えになられたのは他ならぬ御館様であった。
久方ぶりにお目にかかる御館様こと産屋敷様は相も変わらず涼しげな立ち居振る舞いでいらっしゃって、それでもいざ、彼煉獄杏寿郎様の殉職を私にお伝えになられる際には、あの耳障りの良い優しい声がいつになく掠れてらっしゃって、彼が自身の天命を全うし数百名もの命を守り殉職をした、と精一杯言葉を絞り出すように申し上げられた。
上がってくださいと申し上げても屋敷に上がってくださるそぶりのない御館様が玄関先で私に頭をお下げになられている際に、石畳の土間がポツリポツリと水滴で色濃く染まる様を私は決して見逃すことはしなかった。
御館様がその場をお引き取りになられて間も無くして以前には杏寿郎様の継ぐ子であった甘露寺様が伊黒様と共にお見えになられて、彼の早すぎる死を思置かれた。
そしてまたほどなくして今、胡蝶様が屋敷にお越しになられている。
「大丈夫ですか?私は貴女が心配です」
「お気遣いありがとうございます。今は…そうですね、私はまだこれが悪い夢であったらいいのにと思ってしまうほどに、現実を受け入れられておりません。こうして柱の方々や御館様までもが屋敷にご足労くださって、それがいったいどれほどのことかは頭ではよくわかっているつもりなのですが」
「大切な人を亡くすというのはそういうものですよ」
「…はい」
「私達鬼殺の隊士は、普通に生涯を終えるよりも数え切れないほど多くの死に直面します。それは自身が生きれば生きるほどに、です。それでもそれは幾度経験しても決して慣れるものではないのです」
任務のない日には決まっていつも杏寿郎様と向かい合って食事をしていた座卓を胡蝶様と挟んで、その優しい言葉に少しずつこれは現実なのだと突きつけられる。
「今はさぞお辛いでしょう。そしてこれからしばらくの時は益々お辛い事でしょう。でも間違いなく、貴女が幸せになることを煉獄さんは望んでいらっしゃいます」
杏寿郎様がよくおっしゃっていた言葉がある。
心を燃やせ
胸を張って生きろ
と。
あぁ、杏寿郎様。
弱い私をどうかお許しください。
貴方のくれた強さが、
優しさが、
温もりが、
私を冷たく痛めて、燃えるように苦しいのです。
「苗字名前さん」
「はい、胡蝶様、」
「お辛い時にこのような事を伺うことをどうかお許しくださいね。貴女はこれからどうするおつもりですか?」
「私は…もうこの屋敷には居られません。この広い屋敷で帰らぬ彼の面影を胸に1人で生きて行けるほど私は強くありません。それに炎柱亡き今、私がここに住まい続ける権利はそもそもないでしょう」
大きな彼の存在は、私の中では大きすぎた。
彼と共に過ごしたこの広い屋敷が、1人になった途端途方もなく広すぎるように感じられて、住み慣れた屋敷で私は1人迷子になってしまいそうな気すらしてくる。
ここに1人残されるなんて、私には到底無理なことだ。
「お館様はきっと、貴女の気の済むようにしたらいい、と仰られると思います」
「…はい、先程そのように御言葉を賜っております」
「ああ、やはりそうでしたか」
鬼殺の隊士を我が子と呼んで慈しんで下さるお館様のその海のように深く広いお心は、本当の親のように、いや、それ以上に慈愛に溢れていらっしゃって、まるで一家の大黒柱の父のようでもあり、時に母のようにも感じられるそれは、鬼殺の隊士は勿論のこと、私のように戦うことができなくなった者へも同じように注がれる。
ほんの短い期間であったとしても一度でも鬼狩として生きたこと、そして鬼と対峙してもなお無事に灯り続ける命を、お館様は大切に大切にその愛で包んでくださるのだ。
「今日私がこちらにお邪魔したのは、貴女に今後のお話をしに来たんですよ、苗字名前さん」
「今後の話、ですか」
「ええ、そうです。今この場で返事をしてくださらなくて結構ですから。今から私の言う話を、気持ちが落ち着かれたらよく考えてみてください。」
貴女は強い人だと、私は信じていますから。
目の前の胡蝶様はそう言って、その今後の話とやらを私に告げるべく言葉を続けられた。
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