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「どうしたものでしょうか、杏寿郎様」


先日まで2つ並べて敷いていた布団を1つだけ敷いて、床に着くには些か早い時間ではあるが、御館様や杏寿郎様以外の柱の方と久方ぶりに立て続けにお会いした今日の日は酷く気疲れをしたため早めに布団に入る。
灯を消して真っ暗な部屋で冷たい布団に入り込めば、ああ私は本当に1人になってしまったのだ、と身に染みてじわりと目尻に涙が滲んだ。


特にその涙を拭うことはせず、そっと目蓋を閉じて先程の胡蝶様から賜ったお話に思考を巡らせる。
胡蝶様の口から出た今後の話とやらは、その鈴を転がしたような甘い声で発せられたにしては、私には心地の良いものではなかった。


「苗字名前さん、貴女はまだ戦えると私は思っています」

「鬼殺の隊士としてもう一度日輪刀を握りませんか。その暁には貴女を蝶屋敷に継ぐ子として迎え入れましょう」


最終選抜を抜けた際、有難い事に私を継ぐ子に迎え入れようと複数の柱から声をかけて頂いた。
胡蝶様から蝶屋敷に誘われるのはその時以来2度目の事だ。
あのお方は、ずるい。
大切な人を亡くし失意の底にあるこの状況ならば私がまた剣を握るのではないかとお考えになられたのは考えるに明るいことだ。


鬼は、憎い。


でも私はもう、日輪刀を握ることはできない。


人を愛する事を知ってしまった。
自分の弱さを知ってしまった。
こんな人間が戦場に赴くというのはそれすなわち死するのみということだ。
そして、こうして愛する人の死をもってそれの恐ろしさを蒙した私は、
愛する人を亡くした絶望の渦中にいてもなお、
生きていたい、と
死ぬのが怖い、と
そう思ってしまうのです。


「杏寿郎様、」


これから先どう生きていけばいいのだろう


そう、ぐるりぐるりと思考を巡らせても、脳裏に浮かぶのは眩いばかりの愛しい人との思い出ばかり。
最後まで誇り高き鬼殺の隊士としての務めを果たした彼の横にいたのが、私のようなただの情けのない女であっただなんて、彼の短くも果敢で豪壮な人生におけるたった一つの過ちだったに違いない。
そしてそれは、どこまでも優しい彼らしい過ちだ。


閉じていた目蓋をまたさらにぎゅっと瞑れば、眼球を覆っていた涙の膜が目尻から流れ出て頬を伝って枕を濡らす。


あぁ、このまま永遠に目覚めなければいいのに。


外では未だ止まない雨が庭の土や石を打ち付ける音だけが響いていた。







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