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しかし命拾いした私は2週間後に目を覚ます。
何度も何度も私を呼ぶ声が、最初こそ遠くからであったが段々と近付いて、まるで耳元で大きな声で呼ばれたように感じた時、ぱちり、と目を開くことができた。
久方ぶりに開かれた視界はしばらく光に慣れずぼやけていたが、それでも見覚えのある天井と私の顔を覗く胡蝶様のご尊顔にはすぐに気が付いて、自分が命拾いして蝶屋敷にいるという事が理解できた。
身体を起き上がらせようと腹に力を入れると言い表せないほどの激痛が走り、また寝具の上に倒れこむ。
「安静に」という胡蝶様のお言葉をおとなしく飲み込んで、柱を前に大変不躾な姿勢であることを詫びてからそれまで眠っていた間に起きていた事を胡蝶様から聞かされた。
鬼との対峙中、私は背後から鬼の爪で腹を抉られてそのままその場で意識を失った。
そこまでは自分でも記憶がある。
その場には私とお師匠様しか隊士が居合わせていなかった事からその場での詳しいことは胡蝶様も知り得ないようだったが、また身体に傷を増やしたお師匠様がご自身の羽織で私の腹を止血した状態で抱えてこの屋敷まで連れ帰ってくださったとのことであった。
自身も傷を負われた状態だったにも関わらず簡単な処置と傷薬の処方だけでお師匠様は御自身の屋敷に戻られたとのことだが、その際に胡蝶様に私への言付けをされて行ったという。
その内容は、目が覚めて傷がきちんと治ったらまず、私の住居でもある風柱の屋敷に顔を出すように、との簡素なものであった。
目が覚めた際、胡蝶様はまずお師匠様が私を超屋敷まで運んでくださり言付けをされていったことを述べられた後、伝えなくてはならないことがあるとその大きな黒い瞳を一つ瞬かせる。
そして、
「今から申し上げることは怪我人の貴女に伝えるには残酷なことかもしれません」
「でも現実は早くお伝えするべきだと思いお伝えします」
と前置きをされてから、私の身体に起きた事を申し上げられた。
「苗字名前さん、貴女はこの先子供を授かることは出来ないでしょう」
私は元々この血を後世に継がせる事をするつもりがなかったし、その言葉に特に何も感じないだろうと自分自身ですらそう思っていた。
しかし胡蝶様の御言葉を聞いた瞬間、頭には愛しい人の顔が浮かんで自然と目から涙がぽろりと溢れて頬を伝って寝具を濡らした。
そして立て続けに残酷な現実が私を襲う。
おそらく出血量が多かったのだろう。
無事に命拾いしたものの私の聴力は著しく落ちて人並みより劣ったものに成り下がっていて、そうなった私がまた鬼に対峙しようものなら、またすぐに手負いになることは明らかであった。
いや、手負いであればそれはまだ良いもので、あっさりと命を落とす未来が意図も簡単に想像できた。
杏寿郎様は私の目が覚めない間、任務の間をぬってほぼ毎日のように蝶屋敷に見舞いに訪れてくださっていたそうだ。
しかし私が目覚める前日の夜、遠方で鬼のせいと思われる大勢の被害が出た事件が起きたと烏を通じて任務の依頼があり、丁度すれ違うようにして任務に出られたとのことであった。
筆まめであった彼は任務の先からも文を度々送ってくださったが、無闇に心配をかけぬように、無事目が覚めた事と、しばし蝶屋敷で療養するという旨だけを伝えて私は一人寝床の上で今後の自身のあり方をぼんやりと考えるだけの日々を過ごした。
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