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それから私が御師匠様の待つ屋敷に帰ることができたのは、目が覚めてからさらに2週間が経ってからのことだった。
胡蝶様と蝶屋敷で仕える少女達の親身な介抱の甲斐あり薬で痛みを抑えれば日常生活にはさほどの支障がない程度までなんとか回復した私は、念の為もう3日間は蝶屋敷で休むようにとの胡蝶様を説得し足早に蝶屋敷を後にした。
それは次々蝶屋敷に運ばれる他の隊士のために床をあけるためでもあったが、何より御師匠様の言付けが気がかりなためであった。
「御師匠様、只今戻りました」
少し懐かしさすら覚える屋敷の門をくぐって勝手口から屋敷に上がろうとすると見慣れた履物が目に入り、御師匠様が屋敷にいらっしゃることを意識すると思わず背筋にぴりぴりと緊張が走った。
そのまま急ぎ足で、しかし決して大きな足音を立てぬような足取りで御師匠様の部屋を目指す。
屋敷が広いこともあるがいつもより随分と長く感じる廊下を抜けて、目当ての部屋の襖の前にたどり着いたらその場で床に片膝をつき小さく深呼吸をして呼吸を整える。
まず何と切り出すべきか、そう思考を巡らせること数秒のことだ。
「…入れェ」
先にお言葉を発されたのは気配を察知されたのであろう襖の向こうにいる御師匠様の方であった。
「…失礼いたします」
床に膝をついた姿勢のまま静かに襖を横に引く。
「もう良くなったのかァ」
「はい。おかげさまでこうして無事命を取り留めております」
「…そうかァ」
「此度の任務ではこのような怪我もさることながら、御師匠様の足枷となるという、隊士としては無論の事継ぐ子としてあるまじき失態をどのようにお詫び申し上げるべきか、誠に申し訳ございませんでした」
継ぐ子として柱の側近に置いていただきながらも、不手際で傷を負うどころか足手纏いになるような失態など、本末転倒ではあるがそれこそ腹を切って詫びるべきほどの失態である。
そのような事をしでかした私を御師匠様はきっといつもの剣幕で𠮟咤なさるだろうと覚悟を決めてこの屋敷に帰ってきた。
しかし、座敷に腰を下ろして佇む御師匠様は背を向けた御姿で、その御尊顔は御目にかかることはできぬものの、発せられる声のトーンからその様子は私が想像するものと些か異なっていることを感じ取る。
「…師匠、じゃねェ」
「…御師匠様…?」
想像よりずっと静かな低い声が静かな室内に響き渡る。
「俺はもうお前の師匠じゃねェ」
これまで決して短くはない時間を共に過ごす中で、私は此の不死川実弥という人を知った気になっていただけだったのかもしれない。
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