「おっきなため息だね〜どしたの?」
「うわっ!…って、苗字」


床を向いて歩いてきたからすっかり気が付かなかったが、急に声を掛けられ頭を上げるとそこには悩みの種の当本人。


「あ、いやとくになんでもないけど…」
「え〜本当?ずいぶんお困りに見えたよ?」
「うぐ…」


向かい側から歩いてきたのだろう、俺の行く先に立つ苗字は俺の顔を覗き込んでくる。


「さっきからずっと下向いてたし…」

(ちかいちかいちかい…)


ほんとに大丈夫?と覗き込む苗字の顔が近くて、やばい。
身体中の血液がどんどん顔面に集中してくる。
今なら鏡を見なくても顔面が真っ赤なことが容易に想像できる。


「それに上鳴くんの顔、真っ赤だよ」


(知ってますとも!)


誰のせいだ!と心の中で叫ぶものの、それも虚しく当の本人には伝わらず。


「あ、もしかして具合悪い?」
「あはは、そうかもしれない…。あ、季節の変わり目だし風邪でもひいたかな〜」
「ええ!それは大変!」


ごまかすべく適当に話を合わせれば、目の前であたふたと慌てだす苗字。
土曜日の日中、皆思い思いに休日を過ごしているのだろう。廊下に人通りはない。
このシチュエーション、つい1日前の俺なら躊躇なく「お茶しねえ?」って誘うところなのに。


頭の中に級友切島の顔が浮かぶ。
なんでお前が出てくるんだ、切島。お願いだから俺の頭から出て行ってくれ。
どうしても頭の中にまとわりつく切島のせいで、いつもの俺のペースを乱される。
あの野郎、月曜に会ったら絶対1回ビリってやってやる。絶対にだ。


「休校日だからリカバリーガールもいないし…」
「あ、大丈夫大丈夫」
「でも…」
「いやまじで!なんか苗字の顔見たらすっかりよくなったわ!」
「でもまだ顔赤いし…」
「いや、まじでよくなった!」


疑うように俺の顔をずっと覗き込んできていた苗字も、そこまでいうならいいけど…と観念したようだ。


(ほっ)


「大丈夫ならいいけど、無理しちゃだめだよ!」
「おう、心配してくれてサンキューな」