「おわった〜…」


掃除したてのピカピカな共同スペースを見渡して、ソファにぼふっと倒れこむ。
これ、汚す前より綺麗になったんじゃないかなあ。
学生寮にしてはだいぶ豪勢な作りのこの寮は共有スペースもまあまあな広さがある。
ほぼ1人で頑張ったんだから、我ながら上出来だ。


横になったソファからちょうど出入り口が目に入る。
一昨日の夜あのドアに向かっていくかっちゃんに、僕は声をかけようとしたわけだけど、いまだにあの時のことが自分でも疑問なのだ。
結局僕の声は峰田くんの声にかき消されたけど。


(でも僕、かっちゃんになんて言うつもりだったんだ?)


自分の咄嗟の行動に驚いた。
胸のあたりがギュって苦しくて、ぞわぞわして、初めての感覚に思わず声が出ていた。


「う〜ん…」


このもやもやと胸につっかえるものは何なんだろう。


(苗字さん…)


あの日話題の人物だったクラスメイトの顔を思い浮かべる。
みんなが絶賛する彼女はたしかに、かわいい。
でも雄英入学まであまり女の子と話すこともしてこなかった僕には女の子はみんな未知なる生き物だ。
入学前から声をかけてくれて比較的一緒に行動することが多い麗日さんにだって、友達だけれど女の子への免疫がない僕はやっぱり少しドキドキしてしまったりする。


ぼーっと物思いにふけっていると、出入り口に苗字さんの姿。
あ、やばい。僕は思っている以上に疲れているみたいだ。幻覚を見てしまうなんて。


「あれ〜緑谷くん、日曜なのに早起きだねえ」
「苗字さん、」


いや、幻覚かと思ったそれは実物だったもよう。
それもそうだ、ここは寮なんだから本人がいてもなんらおかしくない。


おはよ〜といいながら苗字さんが僕が倒れているソファのところまでやってきた。


「苗字さんこそ、早起きだね」
「ふふふ、それはだね、緑谷くん」
「今日は何かあるの?」
「よくぞ聞いてくれました!」


この時期は気候もいいしお出かけでもするのだろうか。
いや、でも目の前にいる彼女はどこからどう見てもさっきまで寝てました!という風貌に、外に出るには少々無防備な部屋着姿である。


「これからあさごはんをつくります!」