「ぅぅ…ちょっと飲みすぎた…」


おぼつかない足取りでお手洗いまでなんとか辿り着いて、鏡の中を除けば赤くなった頬に目は軽く充血している。
ひぃ。こんな顔を晒していたなんて恥ずかしい。みんなにも…そして彼にも。
幸い気持ち悪くはないけれど、ふらつく足元に比例して思考もなんだかふわついている。


峰田に席替えを強いられて、せっかくの会だし楽しもうと1番盛り上がりそうな席にお邪魔したのが小1時間ほど前のこと。
上鳴君と瀬呂君に両隣を挟まれて、向かいには峰田という完全なフォーメーションをとられ気付いた時には酔っていた。
でもそれは私だけでなく全員が同じこと。
当時の思い出話や今だから言える暴露話、あの時あった噂の真相だとか尽きない話題をつまみにそれはもうすごい勢いで酒を煽って、上鳴君なんて個性を発動させたわけでもないのにうぇ〜いしか言わなくなっていた。


「…よし、戻ろう」


お手洗いに置いてあった綿棒で少しよれたアイメイクを軽くぬぐって、冷たい水で手を洗って扉を開ければ細い通路の壁に背を預ける人物が1人。


「あ、か…爆豪くん…」
「なげぇ」
「ごめんね、お待たせ」


私たちが集まりの度に利用するこの居酒屋は全室個室でプライバシーがしっかり守られているところが皆から好評なのだが、1つ欠点を挙げるとすればあまり広いお店ではない為お手洗いが男女共用で1つしかないところだ。
男性より女性の方が必然的にお手洗いでの所要時間が長くなってしまうことを抜きにしても、ふらつく足つきで用を足してご丁寧にアイメイクまで直していたし、目の前の彼の少し不機嫌そうなところを見ると結構待たせてしまったのだろう。


「はい、どうぞ」
「ちげぇよ」
「え…って冷たっ!」


後ろ手に締めようとした扉を彼に譲ろうとすればちげぇと一蹴されて頬に冷たいグラスを押し付けられる。


「…ちょっとついてこい」
「あ、えっ、か…爆豪君!」


彼の不機嫌はどうやらお手洗いを我慢していたからではない模様で、私にグラスを押し付けたらくるりと背中を向けてすたすたとお店の出口の方へ歩き出してしまう。
ついてこいと言われた以上私に彼の言葉を拒否する権利はなく、どんどん小さくなっていく彼の背中をおぼつかない足取りで追った。