「ん、」
「あ、お邪魔します」
出口を抜ければ、お店の前にぽつんと置いてあるベンチに腰かけた彼が、ぽんと自分の隣を叩くので隣にお邪魔する。
離れたところからはにぎやかな声が聞こえるが、繁華街の中でも奥まった裏路地にあるこの店の前は人通りもまばらで、なんだかここだけ時間が止まったみたいに錯覚しそうだ。
「水飲め」
「…いただきます」
グラスの中で1つだけ浮かんでる氷がカランと音と立てる。
冷たい水がのどを通って体の中にしみわたっていくのがアルコールで火照った体に気持ちいい。
新緑のこの時期はそよそよふく夜風も気持ちよくて、思わず目を細めれば隣にいる彼が口を開く。
「今日なんでそんな飲んでんだ」
「なんか、楽しくてつい」
「たいして飲めないくせにアホか」
「……スミマセン」
楽しかったのは本当だ。でも飲みすぎたのはそれだけではなく、主に久しぶりに顔を合わせたからである…今まさに隣にいる彼と。
(そんなこと言えるわけもないけど…)
ぶっきらぼうだけど気遣ってくれてることが伝わってくるのは、私が彼のことをよく知っているからだろうか。
「はっ、アホ面や醤油顔と話すのがそんなに楽しいか?」
「うん、だって毎年会ってはいたけど何気にちゃんと話すの数年ぶりだったし」
「…そりゃ悪かったな」
「あ、そういう意味じゃなくて…」
この同窓会も早7回目。
でもこれまではずっと、今隣にいる彼…爆豪勝己の隣が私の指定席だったから、参加こそするものの結局毎回彼の向かいに座る切島君を交えて3人で飲んで過ごすのが定番だった。
「…ていうか、見てたんだね」
「見ちゃいねえ、お前らがうるさすぎんだよ」
「あはは、そっか。ごめん」
気にかけてくれてたんだろうか、なんて思いあがってしまいそうになって問いかけてみたらすぐさま彼の言葉に否定をされるけれど。でもこの手元にあるグラスも、今ここにいることだって。彼が私を誰より知っていて、見てくれていた証ではないのだろうか。
それに私はずっと見ていたから。
隣に座る上鳴君越しに、いつものように個室の1番端の席で切島くんとお酒を酌み交わしている姿を。去年までは私もそこにいたのに、今年は2人でいる光景を。
「か…爆豪君は、相変わらずお酒強いね」
「…別に勝己でいい」
「でも」
「いい、今誰もいねえから」
雄英に入学して同じクラスだったことをきっかけに知り合った私たちは、1年生の少し肌寒くなったころにどちらからともなく交際を始めた。
お互いを名前で呼び始めたのはその時からだ。でもそれも2人でいるときだけのこと。
ストイックにヒーローを目指す勝己と、もちろんヒーローを目指してはいたけれども普通の女の子みたいなこともしたがる私は、唯一私たちの交際を知っている切島君に当時からなんで付き合ってるのかわからないと笑われていた。
たしかに何をやらせても器用で才能マンな勝己と雄英に受かったのはまぐれじゃないかっていうくらいの私は真逆で、唯一の共通点は同じ夢を持っていることくらいだったけど、たぶん人間自分にないものを求めるっていうようなあれだったのだろうかと思う。少なくとも私はそうだ。
何でもできる器用さの反面、口が悪くて不器用な性格の勝己がすごく好きだった。
そして、今でもやっぱりすごく好きだ。
高校生活中はこっそり交際して、卒業後にそれぞれ事務所に入ってからはすれ違いばかりで1度別れて。
でもまたどちらともなく元鞘に納まった私達は再度付き合うのをキッカケに一緒に暮らし始めた。
すでに人気ヒーローへの道を進んでいた勝己が住んでいた広くて夜景がきれいなマンションに一緒に住んでいたのはかれこれ半年ほど前までのことだ。
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