「ただいま…って、あれ」


時計の針が重なって日付も変わったころ。
きっと今頃夢の中にいるであろう恋人を起こさないように、静かに玄関の扉を開けて小さな声で帰りを告げてみたら以外にも部屋の明かりがついていた。


(めずらしい、)


念のため、そーっと足音に気を付けながら廊下を抜けてリビングの扉に手をかける。


「あれ、いない」
「にゃあ」
「あ、ただいま」


扉を開けると、そこにいるはずの人影はなく。
1人で留守番させている中に帰宅すると大きな声で駆け寄ってくる愛猫がおとなしくしているところをみると、彼はこの家のどこかにいるはずなのだけれど。
食卓を見ると、仕事が終わってわざわざ一度帰宅して用意をした1人前の夕食は片付けられている。


もしかしたらめんどうくさがりの彼のことだから電気を消さずに眠ってしまっているのだろうか。
寝室の扉をあけてみるがベッドは朝私がメイキングしたままのきれいな状態を保っている。


「あれぇ?」
「おかえり」
「わぁっ!あ、た、ただいま…」


念のため近付いてシーツをめくって彼の姿はないことを確認して、リビングに戻ろうとしたら背後からいきなり声をかけられて思わず吃ってしまった。


「お風呂かあ…」
「ああ、お前帰ってきたらすぐ入るだろうと思ったから先入っといた」


振り返れば見慣れた部屋着姿の彼が首からタオルをかけて濡れた髪を拭きながら立っている。


「ありがと。じゃあ私もシャワー浴びてくるね」
「いってらっしゃい」


今朝ぶりの会話を交わしながら一緒にリビングへ戻って、まだ水滴の滴る無造作に伸びた髪をタオルで拭う彼がソファに腰掛けるのを確認したら、私もシャワーを浴びるべく浴室へ足を延ばした。