食卓に2人前の食事を並べて待つことかれこれ1時間。


「まだかねぇ」
「にゃー」


時計の短針はそろそろ11を指そうとしている。


3時間ほど前、すっかり日も落ちて仕事を終えた帰り道。
今夜もコンビニ弁当で済ませてしまおうかとちょうどコンビニのドアをくぐった瞬間にポケットの中でスマホが揺れた。


もしかして、とちょっとだけ期待を込めて新着メッセージを開けば、欲していたメッセージ。
今夜は帰る、とだけの短いメッセージだけれど、久しぶりに届いたそのメッセージに心が浮足立つ。


今日は最近気に入っている1日分の野菜が取れるというサラダを買って帰ろうかと思っていたけれど、そういうことなら話は違う。
私はそのまま何も買わずに軽い足取りでコンビニを出てスーパーへ向かった。



ーーーーー


「ただいま」
「にゃあ」


玄関ドアを開けると、待ってましたとお出迎えしてくれる愛猫。
今ではすっかりこの子と2人暮らしと言っても過言ではない生活だが、一応この家にはなかなか帰ってこない家主様がいる。


この子もそう、もとはといえばこの家の家主であり私の恋人である相澤消太がある日突然拾って帰ってきたのだけれど、当の本人はかれこれ2週間もこの家に帰ってきていない。


「今日は君のご主人様がかえってくるよ」


足元にまとわりつくこの子の頭を撫でてやれば、おなかを仰向けにしてゴロゴロとのどを鳴らす。
私の言うことが伝わっているのだろうか。
それとも、一緒に喜んでくれているのかな。


この子を拾ってきた日、「なかなかかまってやれなくて寂しい思いをさせているだろうから」なんて彼は言っていたけれど。
その時はろくに帰ってこないくせに動物なんて拾ってくる彼に、自分自身が猫を飼いたい言い訳に私を使うな、なんて怒ったのに。


「すっかり彼の思うつぼだねえ」


どちらかというと犬派だった私が猫の魅力に当てられるのにそう時間はかからず、気が付けばこんな風に話しかけるまでになってしまった。


「よし、ご飯あげなきゃね」


おいで、といってキッチンへ足を向ければ、んにゃと小さく鳴いて私の後をついてくる。
今日はきっと帰ってきた彼がこの子におやつをあげるだろうから、いつもより気持ち少なくドライフードを出してやって、エプロンをつけて食事の準備に取り掛かった。