「…もう、寝ようかな」


短針が11より12に近づいても、先ほどの短いメッセージ以降特に連絡は何もなく。
向かいの席にはすっかり冷めきった食事が1人前。
掃除がてらお風呂を済ませて、それでも一向に待ち人が現れる気配がない為、自分の分は冷めきる前に食べてしまった。
はりなおした浴槽のお湯もきっと今頃ぬるくなっている。


さきほどから見ているニュースにはこれといって大きな事件の報道もない。
今頃彼はどこで油を売っているのだろうか。


手元に置いたスマホを見つめてもうんともすんともいいやしない。
もともとまめな人じゃないのも知っているし、連絡のない関係なんてもう慣れっこだ。


何より合理的な事を好む彼は、世の中の普通の恋人みたいに他愛のないメッセージをくれるようなことは最初からなかったし、便りがないのが元気の証だと思って過ごすように日々心がけている。
…のだが、何度そう思おうと決めたって、不安な気持ちはつきまとう。
浮気だとか、もう気持ちがなくなっただとか、そんな心配ではない。


彼の仕事は教師であり、プロヒーロー。
彼が教鞭をとる雄英高校はヴィランの襲撃を受けて以来ニュースで見ない日はないし、いつ何時危険な目にあうかわからない。


以前帰宅した時だって、久しぶりに見た彼は少し頬がこけて体には無数の小さな傷がついていて。
リカバリーしてもらったうえでそうして傷が残っているということはいったいどれほどのけがを負っていたのだろう。
聞いても答えてくれないから、そういったことを聞くことはとっくの昔にやめたけれど。
やせこけた頬だって、そんな状態でもきっとまたいつものゼリー飲料しかとっていない証拠だ。


食卓を立って、キッチンカウンターからラップをとったらまだ手の付けられていない料理たちに1枚ずつかけて、リモコンでテレビの電源を落とす。


「合理的じゃない」とか言っていつもゼリー飲料で食事を済ませる彼は、こうして用意でもしないときちんとした食事をとってくれないから、帰ると連絡があったときにはバランスを考えてきちんと食事を作るようにしている。
そうしたら出来上がった食事を見てやっぱりまた「合理的じゃない」というけれど、でも作った食事を食べないことはもっと合理的じゃない、といってなんだかんだ食べてくれるから。
その時間がうれしくて、幸せで。ストレートではないけれど実はとっても優しい人だって、知っている。


彼が座るはずだった食卓の椅子にさっきまで鎮座していた小さな同居人はもうとっくに自分の寝床についてしまったようだ。
私も後を追うようにリビングの電気を落として、1人で寝るには大きなダブルベッドに入って目を閉じた。
願わくば目が覚めた時、横に彼の寝顔がありますように。