「お茶子ちゃんお待たせ!」
「おー!名前ちゃん、お疲れ様〜」


アフターホームルームが終わって学校正門にて。
今日は幼馴染のお茶子ちゃんと一緒に帰路につけるということで誰より先にC組の教室を飛び出した。


お茶子ちゃんと私は幼いころ同じ幼稚園に通っていて、いわゆる幼馴染というやつである。
とはいえ転勤族なうちの家族は小学校進学時に関西を離れてしまったものだからそれきりずっと会っていなかったのだけれど、普通科とヒーロー科と専攻は違えどこうして互いに同じ高校を選んでまた再会することになるなんて。
食堂で彼女の姿を見つけたときには思わず手に持っていたトレイを落としかけてしまった。
これはいわゆる運命ってやつなんだと思う。
その再会以来私たちはお昼を一緒に食べたり週に1度授業が同じ時間に終わる曜日には一緒に帰路についており、今日はその週に1度の一緒に帰る日である。


「あれ、麗日さん達も今帰り?」
「あ、デク君」


お茶子ちゃんと合流してさあ帰ろうとしたところを呼び止められて振り返れば、その声の主に思わず目を見開いた。
そこにはあの体育祭でトーナメント戦に出場していた面々がいて、まあ同じ学校の生徒なのだから何もおかしなことではないのだけれど、普通科の私からしたら日頃接することのない存在なもので思わず姿勢を正してしまう。


「むむ!その女性は麗日くんのお知り合いかい?」
「うん、この子は幼馴染の名前ちゃん」
「あ、はじめまして…苗字名前です」
「へえ!麗日さんの幼馴染も雄英に通ってたんだね」


緑谷君と…飯田君、だったっけ。
緑谷君はお茶子ちゃんと一緒に騎馬戦に出場していたからよく覚えている。
飯田君はすっごく真面目そうな見た目なのに、サポート科の女の子に振り回されていた姿がなんだか意外で面白くてあの試合はつい見入ってしまった。


そして2人の後ろにいる紅白の髪の男の子は…轟君だ。
彼の個性はとっても派手で強くて顔立ちも端正で、実は私はこっそりファンである。
体育祭の時1競技目で脱落した時点で観客側にまわっていた私は、騎馬戦以降ずっと彼のことを目で追っていた。
特に緑谷君との試合は痛々しくて見ていられなくて何度も目をつぶってしまったけれど、それまで絶対に使用して見せなかった左の個性を発動した時は身体中に鳥肌が立った。


最終結果は1位に届かず残念だったけれど、爆豪君っていう人もすごく強かったし、もちろんお茶子ちゃんも私が知っているお茶子ちゃんじゃないみたいに強くてかっこよくて、ヒーロー科の人達はなんだか別世界の人のように感じてしまったのが正直なところだ。


「なあなあ、名前ちゃん。せっかくだし駅までみんなで帰らん?」
「え!でも…なんだか悪いし、」
「なぜ悪いんだ?同じ学校に通う者同士じゃないか」
「で、でも…」


私なんてこれといった個性もないし。
さっきから黙って緑谷君と飯田君の後ろに立っている轟君の方をちらりと見ると、あくびを噛み殺した轟君と目が合う。


「…帰りてぇ」
「ほら。轟君もそういってるし、ええやろ?名前ちゃん」
「えぇぇー…」


(お茶子ちゃん、今の帰りたいはたぶん早く帰りたいとかそっちの意味だと思うよ…)


私の心の声も虚しく、ひょんなことからお茶子ちゃん率いるヒーロー科の面々with普通科の私という少々珍しいメンツで駅までの帰路についたのだった。



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「…はぁ」
「どしたん?名前ちゃん」
「お茶子ちゃん、緊張したよぅ…」


緑谷君と飯田君と轟君。
急遽一緒に帰ることになったヒーロー科の男の子達と駅で別れて、反対方面に向かう電車にお茶子ちゃんと乗り込むとため息と一緒にどっと疲れが溢れ出す。


「あはは、みんないい人だったでしょ」
「うん、まあそうだけど…」


だってあの轟君と肩を並べて歩いたのだ。そんなの緊張しないわけがない。
わいわい楽しそうに先陣を切って歩いていくお茶子ちゃんと緑谷君と飯田君の後ろをとぼとぼとついて歩きながら、隣を歩く轟君に終始どきどきして顔を見ることさえできなかった。
でもたまに皆の会話に参加する彼は想像と違ってだいぶ柔らかい印象で少し驚いたりもして。


「今日はあんまり時間なかったけど、今度はみんなで食堂行きたいねえ」
「う、うん」
「よし。じゃあ近々デク君たちをお誘いしてみよう!」


そう言って胸元で拳をぐっと握って意気込んだお茶子ちゃんは、じゃあねと言って私が降りるよりだいぶ手前の駅で下車していった。


(食堂、かあ)


それはつまり一緒にお昼ということである。
轟君はどんなものを食べるんだろう。
ハーフみたいで王子様みたいな顔立ちだし、なんかとってもおしゃれなご飯を食べたりしていそうだ。
そんなことを考えていたら、目の前の座席がちょうど1つ空く。
憧れの人と一緒に下校できたし、ラッシュ時のこの電車で座れるし、今日はちょっとラッキーかもしれない。


そのまま残り30分ほどの距離をスマホで音楽を聴きながら電車に揺られて、地元の駅に降り立った時にはあたりはすっかり暗くなっていた。
1人で帰宅する日には快速電車に乗ってしまうけれど、お茶子ちゃんと帰る日は少しでも一緒にお話ししていたくて鈍行で帰るからいつもより帰りが遅くなってしまう。
駅から私のおうちにたどり着くには大通りから1本裏に入って細い道を通らなくてはならなくて、暗い中1人で帰るのは正直あまり得意ではない。


それに最近、なんだか視線を感じるような気がするのだ。
とはいえ特段何か秀でているわけでもない私が誰かに狙われる理由もないし、視線や気配を感じて後ろを振り向いてもいつも誰もいないから勘違いだと思うのだけど。


「…大丈夫、大丈夫」


声に出してそう呟いて、自分に言い聞かせるようにしながら自宅への帰路を急いだ。