日付も変わった深夜帯、1人で住むには少し広い駅近の築浅マンションに帰宅する。
暗い部屋の中を真っ直ぐキッチンに向かって冷蔵庫の扉をあけたら、タッパーに小分けに詰められた常備菜をレンジにかけて、今日も丁寧に用意された食事を温める。
静かな部屋に無機質な電子音が響くとなんだか1人を痛感させられて、この料理を作ってくれた人物…名前への思いが募った。


名前との出会いは彼女が勤める会社のメンズ用化粧品のPRに起用されたのがきっかけだった。
広報を担当していた名前と打ち合わせで何度か顔を合わせるうちにすっかり彼女に惚れこんでしまって、なんとか交際に至ってかれこれ早数ヶ月がたつ。


しかし一般企業に勤めてOLをしている彼女とプロヒーローとして活動する俺とでは生活リズムが違うこともありなかなか会うこともままならず、顔を合わせられるのは週に1度互いの休みがあった時だけ。
それすらも急な要請で当日にキャンセルしてしまうことも多々あるし、渡している合鍵でこうして合間を縫って家事を済ませに来てもらうばかりの関係がもっぱらとなっている。


「…はあ、」


散々口説いておきながらしてもらうばかりの関係に情けないやら申し訳ないやら思わず大きなため息が漏れる。
本当は色々な所に連れて行ってやりたいだとか、思うことは山ほどあるのだけれど。
そろそろ次の約束を取り付けないといつ彼女に呆れられて別れを告げられてしまうやもしれないと冷蔵庫にかけられたカレンダーに目をやれば、まだ先月のページのままで放置されている。
最近だいぶ忙しくて、自覚はなかったが日常生活もままならないほど心の余裕もなくなっていたようだ。
また1つため息をついて用の済んだ先月のカレンダーを捲り上げた瞬間、赤い字で書かれたスケジュールが目に入りこめかみに冷や汗がつたった。



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「はあ〜…」


終電に乗り込んで駅から10分ほど歩いたところにある閑静な住宅街に位置するマンションに帰宅したら、身に纏った服を脱ぎ去って熱めのシャワーを頭から浴びる。
自社の新商品のシャンプーで髪を洗って、同じシリーズのトリートメントをたっぷり髪につけたらシャワーキャップをして湯舟に身体を鎮める。
ポールシェリーのバスオイルを入れた湯舟で半身浴をするのは週に1度金曜日だけのお楽しみで、週末に焦凍くんに会う前のスペシャルケアの一環である。
とはいえ近頃はあまり思うように会えていないし、この週末だってどうなるかわからないのだけれど。


先週の休日も新しいワンピースを着て髪を巻いてお邪魔しますと彼の家に踏み込んだ瞬間、彼の携帯に応援要請の電話がかかってきてたった一目顔を合わせただけで会話すらままならなかったし。
けれどもそんな風に全力で仕事に取り組む彼の姿勢に惹かれたのだし、忙しいながらに気を遣って会おうとしてくれているのは重々感じている。
だからこれまで彼を困らせることのないようにわがまま言わずに支えてきたつもりなのだけれど。


カレンダー通りに呑気に休んでいる私と彼を同じ土俵で比べるなんてもってのほかだし、ヒーローという職業は自分都合で休みが取れるような甘い仕事でないことはわかっている。
けれどもやっぱり、たまには一緒の時間を過ごしたいと思ってしまうのは贅沢だろうか。
たまに。そう、せめて誕生日くらいは、とか。


「会いたいなあ…」


今週末は会えるかな。
浴室で溢した独り言が静かに響いて消えていった。