日曜日の昼時はどうしてこうも街が賑やかなのだろう。
幸せそうに笑う家族連れやカップルを横目に、1週間分の常備菜を詰めたタッパーをいっぱい入れた袋を膝に乗せて電車に揺られて彼の家を目指す。
この週末こそ一緒に過ごせるかと期待に胸を膨らませていたものの、残念ながら願いは叶わず今日は家で片付けなくてはいけない仕事があるからと断られてしまったのだけれど。


こんな時本当はおとなしくしておくべきなのかもしれないけれど、最近あまりに忙しそうな彼の役に少しでも立てればと、今日は家で食事を仕込んで届けることにした。
焦凍くんは放っておくと蕎麦ばかり食べる偏食家だから、バランスよく栄養が取れるようにいろんなおかずを作ってきた。
職業柄彼はよくからだも鍛えているし、せっかくならその効果を最大限に出せるようにとの意図もある。
これなら仕事をする焦凍くんの邪魔にもならないし、一目顔も見ることができる。我ながら名案だと思った。


「ふう、あとちょっと」


改札を抜けて少し歩いたら、駅からほど近い彼のマンションに続く路地に曲がって入る。
その瞬間、見慣れた後ろ姿が視界に飛び込んだ。


「え…?」


ばさり、と音をたてて作ってきた食事の入った袋が手から滑り落ちる。


私の目指す先とおそらく同じ行き先を目指しているであろう、歩くたびにさらさら揺れる紅白の髪に高身長のあの人は私の恋人である轟焦凍くんで間違いない。
そんなの顔を見なくたってすぐわかる。
いつもならその大きな背中に抱きついて彼の名前を呼ぶのに。でも、今はできない。


いつも私と行く近所のスーパーの袋を両手いっぱいに持った彼の隣には、背の高い綺麗な黒髪の女性の姿があった。



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「八百万、休みの日に悪ぃ」
「とんでもないですわ。でもまさか、轟さんからお料理を教えてほしいと言われる日が来るなんて思いませんでした」
「これくらいしか思いつかなくてな」


日曜日の昼時。
いつもなら貴重な休日は名前と過ごすけれど、今日の俺は自宅のキッチンにかつての級友と立っている。


「じゃあまず、すぐ使わない食材は冷蔵庫に仕舞いましょうか」
「ああ」


先日ふとカレンダーをめくった時に彼女である名前の誕生日が迫っている事が発覚した。
正直忙しすぎて覚えていなかったこともあり、旅行を段取りするほど余裕もないし、先日の休みに買い物に出掛けた際にアクセサリーはプレゼントしてしまったばかりで、さてどうするかと頭を悩ませていたところふと思いついたのが彼女に手料理を振る舞うことだった。


名前は家庭的で料理の腕も良いし、そんな彼女に素人の料理を振る舞うのもどうかと思う気もしつつ、いつもしてもらうばかりの彼女へ日頃の感謝を込めた俺なりの精一杯のアイディアである。
それに手料理を振る舞えば自宅で気兼ねなく一緒に過ごす事ができて、日頃なかなか思うように一緒の時間を過ごせないことへの埋め合わせも叶う。


我ながら名案だと思いそれなら早速とお料理アプリをスマホにインストールして、先日少し早く仕事の終わった日にスーパーに寄って帰宅してから練習がてら何品か作ってみたもののその結果は無残なもので。
振り出しに戻ってしまいどうしたものかとまた頭を抱えて、思いついたのが我らが八百万に料理を教えてもらうことだった。


「あら轟さん、こちらのお料理は?」
「ん?ああ、それは彼女が作ってくれたやつだ」
「まあ、彼女さんはお料理がお上手なんですね!なら尚更腕によりをかけないと」


冷蔵庫の中の残り少なくなった名前の手料理を見た八百万が責任重大ですわと言って意気込む。
それを見て俺も右手に慣れない包丁を握った。