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気持ちが悪い。

吐き出しそうだ。

気持ちが悪い。

胸に、澱が積もり積もって息苦しい。

吐き出しそうだ。

苦しい。

気持ちが悪い。

でも、


――吐き出して、いいのか?





+ + + + + + + + + + + + +






「……!!」


目が覚めて、あたりを見渡す。
午前2時、寝室だ。

どくどくとうるさい心臓をおさえ、静かに呼気を深く吐き出した。


「…きもちわる…」


水でも飲もう、そう思い起き上がる。
ちらりとベッドサイドを確認して、細かな傷の付いた学生証がかわらず同じ位置にあることに安堵した。

手を伸ばし、学生証の表面を指先で撫でる。


――『何か予定外のこと、あった?』


初めての呪霊退治を終えた後、昼食中に五条さんはそう聞いてきた。
全く構えていないところに放り投げられた質問に、わかりやすく動揺してしまった。

――『特には』、なんて取り繕ったけれど、恐らくバレバレだったに違いない。
その証拠に、五条さんはにんまり笑っていたから。

五条さんと関わりを持ち、“呪霊”という存在への理解を深め、ようやく今まで己の周辺で起きていた“奇々怪々”の姿がぼんやりとだが見えてきた。

けれど、それを馬鹿正直に五条さんに報告するだなんてことはしない。


――例えば、自分が“空想の友人ペット”だと思っていた存在は、恐らく式神であったことだとか。


何故ならあの人と私の間にあるのはあくまで利害関係であって、協力関係ではないからだ。
五条さんのことをどれ程好ましいと思ったとしても、それは主観でしかない。

私の味方は今、もはや誰一人としてこの世に存在しないのだ。
存在する縁は、全て何かの上に成り立っている。それは、外聞であったり、社会的な役割であったり、金であったり。

私個人のみと繋がる・・・・・・・・・縁は一つもない。


(自分を守ることができるのは、自分だけ)


「…ゴホ、」


呪い・・が渦巻いて、苦しい胸をさすった。


210420
  

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