「お久しぶりです」
「ほんとにな」
人懐っこい笑顔を彼は見せた。
「元気にしてたか?」
「まぁ、見ての通りですね。倉持さんは?」
「俺も見ての通り」
元気そうでなによりです、と返して俺も笑う。
彼の独特な雰囲気は、俺にとってすごく落ち着く。
合宿が終わり短いオフに入ると知って、一番に連絡したのが彼だった。
「じゃーとりあえず、並ぶか」
「ですね」
こっちに帰ってきてから会えていなかったこともあり、お会いしたいですと伝えた俺に折角だから初詣とか行くかと彼が提案してくれて。
俺は人生初の初詣に来ていた。
「こんな人いるんですね」
「まぁ、この辺じゃ有名な神社だからな」
「お祭りみたいです」
似たようなもんだな、と彼は笑う。
「こっち、残るんだろ?」
「はい」
「このあいだの発言で、そーなんかなって思ってた」
向こうの奴らはどうすんの?と彼が首を傾げる。
「大学までチームが存続することが決まって」
「あー、じゃあ高校卒業したら戻んのか」
「そうです」
意外とわがままなんだな、と彼は言う。
それに首を傾げれば彼は笑った。
「だって、全て選んだんだろ?自分の願いも、向こうもこっちも全部」
「あー、確かに」
「まさかそんな選択すると思ってなかった。けど、お前だから許されるんだろうな」
Joker'sはお前のチームだもんな、と彼が言う。
俺のチームというのには多少 語弊がある。
だけど間違ってはいない。
「向こうの奴らは納得してくれてんの?」
「はい。日本で野球して、俺らに置いてかれんなよって言われました。だから、俺は俺で 頑張ります」
「そーか。まぁ、これからも対戦できるならそれはそれで嬉しいな」
向こうにいるお前も見たいけど、と彼は小さな声で言った。
「倉持さんって俺のこと大好きですよね」
「は?」
「俺も大好きですよ、倉持さんのこと」
お前は何言ってんだ、と頭を叩かれる。
「痛いです」
「自業自得だ」
怒った口調だったけど、そっぽに向けられた顔は少し赤くなってるように見えた。
「照れてます?」
「しばくぞ」
「冗談です」
こっちを見た倉持さんはなに嬉しそうな顔してんだよ、と言った。
「してますか?」
「してるな」
「んー、なんか いいなぁって思ってたんです」
なにを?と首を傾げた倉持さんに俺は貴方の後輩になることと答える。
「俺の後輩?」
「沢村と倉持さんの関係なんかいいなって思ってて。仲良くて でも尊敬してて。たまにしばかれたり?倉持さんって 俺にはただただ、優しいので」
「お前が俺の後輩だったとしても、変わんねーよ」
俺にとって憧れで、可愛くて仕方ねぇ存在ってことはきっと今と変わらないと彼は言う。
「けどな、お前と一緒のチームだったらって 俺も考えたよ」
「そうなんですか?」
「同じチームにいたら、俺がお前のそばにいられるなら。あんなにお前を悩ませたり 追い詰めたりしなかった」
ほんとに、優しい人だ。
こんなかっこいいことサラッと言っちゃう人はそういない。
「まぁ、お前と戦えるのも嬉しいけどさ」
「はい」
「はい、この話終わり!」
恥ずかしいからもういいよと俺の頭を撫でて彼は笑う。
「いつか そーなる日が来るだろ。だから、今はこのままでいーよ」
「そうですね」
そろそろ年明けんな、と彼が携帯の画面を見ながら言った。
「あれ、携帯?」
「あー、そうだ。どうせ使わねぇからずっと実家に置いてきてて。颯音と連絡とりてーし持ってきた」
「沢村挟まなくてよくなるんですね」
▽
颯音とラインを交換すれば、彼は嬉しそうに画面を眺めていた。
「今日は顔 ゆるゆるだな」
「こっちにきて1人目です。交換したの」
「は?まじ?チームのやつらは?」
別にする必要なくて、と彼は困ったように笑った。
「ラインもこの間チームに帰った時に入れたので」
「なるほどな」
初詣の列のどこからともなくカウントダウンが聴こえてくる。
ハッピーニューイヤーと騒ぐ人たちを彼は物珍しそうに眺めていた。
「あけましておめでとう」
「はい、あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」
「おう、よろしく」
お参りを終えて、颯音にどうする?と声をかければとりあえずぶらぶら見ましょう、と俺の手を引いた。
まぁ、楽しそうだからいいか。
彼が決めたことに口を出すべきではない。
俺はただの1ファンなのだ。
だが、彼がまた 苦しむことになるのなら 次は成宮鳴を許す事は出来なくなるだろう。
「颯音」
「はい?」
「楽しいか?」
倉持さんと一緒ですから、と彼は笑った。
そんな風に 稲実でも 笑ってくれりゃいいのにな。
Joker'sにいた時から変わらない。
俺は彼の笑った顔が、なによりも好きなのだろう。
▽
「オフでもこのメンツかよ」
「いや、声かけてきたの鳴だろ」
人が多い、と不満そうな白河と口では文句を言いながら嬉しそうな鳴。
「樹とか颯音、声かけてねぇの?」
「樹は実家で年越しらしいよ。颯音は連絡先知らなかった」
嘘だろ、と返しはしたが そういえば俺も知らない。
「同じ寮にいるからわざわざ交換しようって気にならなかったわ」
「だよね」
颯音の名前が出た瞬間、白河の表情が一瞬 曇った気がした。
まるで、彼を嫌っていた頃の鳴みたいだった。
白河と颯音は最初から結構順調な関係を築いていたはずだ。
2人とも、喧嘩とかするタイプではないし。
見間違い……だったのか?
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