人体実験の被験者
『第2種目は 騎馬戦!!』
騎馬戦…
個人競技じゃないんだな。
『参加者は2〜4人のチームを自由に組んで騎馬を作ってもらうわ。基本のルールは一緒だけど、先ほどの結果に従い各自Pが振り当てられること!つまり組み合わせによって騎馬のPが違ってくる』
なるほどね。
一位は一万Pとずば抜けた数字。
上位のやつほど狙われる…そういうルールか。
騎馬を誰と組むかっていうのも大事なんだろうな。
比較的クラスで固まっているのを眺めながら、見つけた姿に 駆け寄る。
「人使」
「血郷?」
「俺と組んでよ」
目を丸くさせる彼がいいのか?と首を傾げる。
「俺は人使がいいなって思ってるんだけど。嫌?」
「嫌じゃない、ありがとう」
誰が欲しい?と尋ねれば 安定した騎馬を作りたいと彼が答えた。
彼の隣には体の大きめな男の子。
「洗脳済み?」
「あぁ」
「おっけ。じゃあ、もう1人は…」
キョロキョロと周りを見渡して見つけた存在に声をかける。
ちょうどよかった。
「尾白!」
「血郷?」
「ペア決まってなかったら 組まない?」
俺の問いかけに彼は頷いて、人使の方を見る。
「ど?」
「文句ない。よろしくな、尾白くん」
人使がそう尾白に声をかけて、「よろしく」と答えた彼がぴたりと動きを止めた。
「俺は?洗脳してもいいけど」
「やだよ。そのままでいい」
「そ?」
俺が前で 2人を後ろにし 人使を上にして騎馬を組んで 作戦は?と彼に問いかける。
「最初は好きにやらせとけ。まとまったとこを掻っ攫う」
「うんうん。シンプルでわかりやすい」
スタートの合図があっても 動き出さず 戦いの流れを眺めていた。
「まぁみんな緑谷狙いだな」
「派手にやってるね」
別に嫌いじゃないけどね。
純粋にヒーローを目指しすぎていて、関わりにくい。
「血郷はさ、」
「うん?」
「なんで俺と組んでくれたの?」
途中経過のポイントを見ながら 彼が言った。
「人使の個性が好きだから。A組に来て欲しいって本気で思ってるし。だから、力になれるところは 協力したい」
「俺のこと大好きじゃん」
「そうかもね」
そんなんじゃ勝てないよ、と誰かが言いながら 人使のハチマキを奪っていく。
「取られちゃったけど、」
「まだだね。あの派手な戦いが ピークになって、時間がギリギリになるまで」
あれこそ因縁だな。
緑谷を狙う焦凍や爆豪を見ながら思った。
「残り1分半だ」
「動き出そうか」
狙いがどこかは言葉にせずともなんとなくわかった。
「初めての 共同戦線 だね」
「どうしたの、急に」
「しかも、誰も傷つけず 誰にもバレない隠密活動」
あの日話してたやつみたいじゃない?と言えば彼が笑った。
「実現が、早いね」
「本当に」
人使が声をかけて動きが止まった好きに 俺の血で ハチマキを奪い去る。
残り10秒のカウントダウンに もう1つの騎馬に近づき、同じようにハチマキを奪った。
「楽勝」
人使が、笑う。
終了の合図が鳴り、彼の手が俺の頭を撫でた。
『早速 上位4チーム見てみよか!1位轟チーム!2位爆豪チーム!3位鉄て…アレェ!?オイ!3位は心操チーム!!いつの間に逆転してたんだ、オイオイ!そして、最後が 緑谷チーム!以上4組が最終種目へ進出だー!』
隣に立った人使が手を上げて、俺もそれに手を合わせ パチンと音が鳴る。
「ナイス、相棒」
「いーね、その響き」
『一時間休憩挟んでから午後の部だぜ!じゃあな!』
▽
それぞれ控え室に戻っていくなか ざわりと血が騒いだ。
近くにいる。
静かに列を抜けて、ドクドクと脈打つ心臓を抑えながら 足を進める。
「これだけは覚えとけ。アレは…いずれ貴様をも超えるヒーローにする。そうするべく 作った仔だ」
「何を…」
「今は下らん反抗期だが必ず超えるぞ…超えさせる…!」
話し相手は、オールマイトか。
彼の足音がこちらに近づいてくる。
「あぁ、元気そうだな」
顔の炎がゆらりと 揺れた。
「お久しぶりです、エンデヴァーさん。お元気そうで、なにより」
体の中の血が グツグツと騒ぎ始める。
思い出しているのは、あの日のことか それともそれ以前の惨状か。
「アレとは、上手くやってるか?」
「期待に沿えるほどではないですよ、きっと。彼には、嫌われているので」
にこりと笑ってやれば、彼の炎が揺れ 彼も笑った。
「会えば会うほどに、人間らしくなっていくなぁ」
「お褒めの言葉として、いただきますね。人間になるために 必死ですからね」
ぷつ、と手のひらの皮膚が破けた。
そして滲み出る 血液。
制御なんて効かない。
血が 彼を 壊したいと 叫んでいる。
「だが、変わらんな。その目は」
「そうですか?」
「あの時となんら、変わりない」
彼の言葉に 笑った。
「そうだとしたら、もっと人になれるように頑張りますね」
「そうしてくれ」
彼は笑いながら俺の横を通り過ぎていく。
「あぁ、そうだ」
「なんでしょう」
「アレには 勝つなよ」
彼はそれだけ言って、廊下の奥へ消えていく。
「ふざけんな」
思い通りに 動いてやる気なんか カケラもない。
ポケットの中のタブレットを口の中にいくつか放り込んで、ガリッも噛み砕く。
「バレてたな、」
手のひらの血を舐めとって、笑う。
「あーぁ、焦凍には 勝つな、ねぇ」
さすが息子が大好きで大好きで仕方ないクソ親父だ。
「まぁ、ただ負けるだけじゃ面白くないしね。楽しませてもらうけど」
▽
「思い出した…」
廊下で話す エンデヴァーと猫ボーイこと 蛟 血郷。
それを見て ピンときた。
アテネ育児院。
10年くらい前のはずだ。
俺がヒーローになりたてくらいの頃。
エンデヴァーが、解決した事件。
通報が遅くて、彼が駆けつけた時には 何十人もの犠牲者が出ていた。
生き残りは、確か 1人。
悲惨すぎる事件 そして 孤児院の内情のこともあり メディアには隠された。
そして、そこの生き残りは…
「何してるんですか?」
人体実験の 被験者。
「プレゼント・マイク」
彼が笑う。
あぁ、これは やばい。
校長は知ってんのか?
いや、知ってそうだな。
消太は知らない。
知らせた方がいいのか?
知らない方がまだ、救いか?
「消太の飯、買いに行こうと思って 来たんだよ」
「そうだったんですね。てっきり、盗み聞きしてたのかと」
彼は笑顔を貼り付けたまま、俺をじっと見つめた。
交わった視線。
なんだこの、嫌な感じ。
「…ふぅん」
まるで別人じゃねぇか、猫抱えて来たアイツと。
「まぁ、そういうことにしておきますね」
彼はそう言って笑顔を消した。
まるで仮面の取り外しだ。
「知らぬが仏、ですよ」
人差し指を唇に添えて、もう一度微笑んだ。
パチリ、と瞬きをした彼は いつもと変わらぬ姿に見えた。
俺の横を通り過ぎて、足音が離れていく。
肩の力が、ドッと抜けて その場にしゃがみこみ額に手を当てる。
ほんと、知らぬが仏だ。
あんなもの、扱えるのか?
てか、ヒーローになれるのか?
「勘弁しろよ、猫ボーイ」
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