絶対諦めない
休憩終了後。
なぜか女子はチアの格好をしていた。
どうやら峰田と上鳴が騙したらしい。
この後レクリエーションを挟んで、最終種目が行われる。
『進出4チーム総勢16名からなるトーナメント形式!!1対1のガチバトルだ!!』
1位チームから順にくじ引きで、と言い始めたミッドナイトを遮り尾白が手を挙げた。
「俺、辞退します」
「なんで!?」
「騎馬戦の記憶ほぼ、ボンヤリとしかないんだ。多分、奴の個性で…」
尾白がこちらに視線を向けた。
まぁ、彼からすれば俺は味方を売った敵ってわけか。
「チャンスの場だってのはわかってる。それをふいにするなんて愚かなことだってのも。でもさ!みんなが力を出し合い争ってきた座なんだ。こんな、わけのわからないままそこに並ぶなんて、俺は出来ない」
真面目だな。
こーいう展開は予想してなかった。
「俺のプライドの話さ…。俺が、嫌なんだ」
プライドね。
尾白の流れに続き、もう1人の男の子も出場を辞退。
そして、別のチームの2人が繰り上げになった。
尾白は静かに俺の方に歩み寄ってきた。
「蛟、」
「ごめんね。わかってて、君を仲間にした。そうでなきゃ、普通科とは組まないと思ったから」
「…そうかもね」
俺はごめんね、ともう一度言って 人使の方に視線を向ける。
「尾白に守りたいプライドがあるように、俺にはどうしても譲れないものがあるから。恨むなら、恨んでくれて構わないよ。裏切り者と、思ってくれても 構わない」
「いや、そんなことは…思ってはないよ。気にしないで、いい。そう、伝えたくて」
頑張って、と 彼が悔しそうに 笑った。
本音ではないんだろう。
内側の感情は、今は整理しきれていない。
そんな 気がした。
「ありがとう」
そして決まった、トーナメント。
最悪だの、一言につきる。
初戦で、焦凍とはね。
勝つなと、言われているし 勝つわけにはいかないけど。
ただ負けるのは嫌だしね。
訓練で負けたのもあるし、エンデヴァー二世の顔に 泥は塗って終わりたいところ。
レクリエーションが始まって、焦凍が俺のところへ歩み寄ってきた。
「血郷」
「なぁに?」
ふつり。
一瞬だけ、血が騒いだ気がした。
交わった視線に、会話はない。
「全力で、どーぞ。とだけ、言っておくよ」
にこりと笑う。
彼は目を逸らした。
「あ、いた。血郷」
焦凍の少し向こうから、人使が俺の名前を呼んだ。
その声に焦凍も振り返る。
「どうしたの、人使」
「レクリエーション出る?」
「出ない」
一緒に、外行かない?という彼の言葉に俺は微笑んだ。
「行く。じゃあね、焦凍。またあとで」
人使は少し、緊張すると 呟いた。
「いつも通りでいいんだよ。多分、尾白が緑谷に人使の個性について 伝えてると思う」
「まぁ、仕方ないね」
「それでも、緑谷は感情的になりやすいから。煽れば、対策されてても いけると思う」
そうだといいなぁ、と彼が俯きながら 笑った。
「1対1だから。ここにいる全員 人使を見てる」
俺が足を止めれば、彼も足を止めてこちらを振り返る。
「生徒も先生もヒーローも、一般人も みんな 人使の戦いを見てる。入試の時とは違う。自分の個性を見せつけてやればいいんだよ。」
「簡単に 言ってくれるなぁ…」
「その個性を見て、きっとみんな思うから。こんなヒーロー いたらいいのにって」
そう思わせれば勝ちだ。
勝敗よりも、印象付けることが大事だと思う。
まぁ、勝つことも大事だけど。
「全力で 心操人使の洗脳を 見せつけてこい」
「おう」
▽
レクリエーションが終わり ついに始まる最終種目。
『Hey Guys!Are you ready!?!』
放送席から聞こえるマイク先生の声。
『色々やってきましたが!結局これだぜ!ガチンコ勝負!!頼れるのは己のみ!ヒーローでなくともそんな場面ばっかりだ!わかるよな!心技体に知恵知識!!総動員して駆け上がれ!!』
フィールドに出てきた緑谷と人使。
『一回戦!成績の割になんだその顔。ヒーロー科 緑谷出久 vs ごめんまだ 目立つ活躍なし!普通科 心操人使』
入場門のところで、人使の背中を見つめる。
「わかるかい 緑谷出久。これは心の強さが問われる戦い。あの猿はプライドがどうとか言ってたけど チャンスをドブに捨てるなんてバカだと思わないか?」
『START!!!』
「なんてこと言うんだ!」
人使の言葉に、緑谷が 応えた。
「俺の 勝ちだ」
『オイオイどうした大事な緒戦だ。盛り上げてくれよ。緑谷 開始早々 完全停止!?』
いーじゃん、人使。
めっちゃド派手に、決めてる。
『全っっっっ然目立ってなかったけど彼!ひょっとしてヤベェやつなのか!!』
『だからあの入試は合理的じゃねぇって言ったんだ』
放送席から聞こえてきた相澤先生の声。
『心操 あいつ ヒーロー科の実技試験で落ちてる。普通科も受けてたのを見ると想定済みだったんだろう。あいつの個性は相当強力なものだが あの入試内容じゃそりゃPは稼げねぇ』
「おまえは恵まれてて良いよなァ緑谷出久。振り向いて そのまま場外まで歩いていけ」
緑谷は彼に背を向けて 場外へと歩いて行く。
『心操人使の個性は洗脳だ』
少しずつ離れていく緑谷の背中。
「わかんないだろうけど…こんな個性でも夢見ちゃうんだよ。こんな俺を信じてくれてるやつもいる。さァ負けてくれ」
「っ………!!!」
緑谷があとわずかのところで 立ち止まった。
なんで?洗脳が解けた?
「何で?体の自由は効かないはずだ。何したんだ!」
緑谷が口を押さえて振り返る。
やっぱり ギミックはバレてたんだろうな。
ただ、咄嗟に答えてしまった。
「なんとか言えよ。指動かすだけでそんな威力か、羨ましいよ!」
人使…
人を羨む必要なんて、ない。
「俺はこんな個性のおかげでスタートから出遅れちまったよ。恵まれた人間にはわかんないだろ。誂え向きの個性に生まれて望む場所へ行けるやつらにはよ!!」
緑谷が人使に掴みかかる。
ズルズルと押されていく人使の背中が、こちらに近づいてくる。
そして、緑谷の雄叫びとともに 浮いた体。
『心操くん 場外。緑谷くん 二回戦進出!』
会場を、拍手が包む。
「心操くんは、何でヒーローに?」
「憧れちまったもんは仕方ないだろ。俺でもヒーローになれるって、言ってくれるやつに出会ったんだ」
人使がこちらを向いて、泣きそうな顔をした。
「かっこよかったぞ心操!」
「俺ら普通科の星だな!」
「障害物競走一位のやつと良い勝負したんじゃねーよ」
かけられる彼への言葉。
そして、ヒーローや観客たちの 声。
「聞こえる?人使。人使は すごいよ」
彼が唇を噛んで、頷いた。
「結果によっちゃヒーロー科編入も検討してもらえる。覚えとけよ?今回は駄目だったとしても…絶対諦めない。ヒーロー科入って資格取得して…絶対お前らより立派なヒーローになってやる」
こちらに歩いてきた人使が、顔を俯かせる。
それをただ、抱き寄せた。
「お疲れ。かっこよかった」
「っ悔しい…」
「うん」
次は、絶対に勝つと 彼の声は震えながらも 真っ直ぐだった。
「少し、待たせるかもしれないけど。待ってて、くれるか」
「待ってる」
彼の髪を撫でて、俺はフィールドの方に視線を向けた。
こんなん見せられたのに、俺は勝つことが許されないなんて。
「人使、」
彼から距離を取って、彼の顔を覗き込む。
「ごめんね」
初めて、誰かのために 勝ちたいと 思った。
「血郷?」
「俺の試合は、出来レースだ」
焦凍も、知らない。
観客も知らない。
けど、人使は知っててほしい。
「何言って…」
「詳しくは、話せない。けど、俺の…過去に関わることで 今回は勝っちゃ いけない」
殺したいほど憎い男だ。
だが、噛み付く準備はできている。
「幻滅、させてごめんね」
彼の涙を救いあげて、笑った。
「わがままだけど人使にも、待っててほしい」
彼がどういうこと、と呟く。
『さぁさぁ、次の試合行くぜぇ!!』
放送席の声が、大きく響いた。
「ちゃんと 奪い返してくるから。待っててほしい」
彼の頬から 手が 離れる。
「血郷!」
歩き出した俺の名前を彼が呼ぶ。
「よくわかんないけど。出来レースだとしても。無様に負けんなよ」
「うん」
「……待ってる」
ありがとう、と笑う。
無様になんて、負けるつもりはない。
焦凍に、無様に 勝ってもらう。
それがせめてもの、反撃。
『地味に 目立ってんだよな 猫ボーイ!
ヒーロー科 蛟 血郷!! vs 2位 1位と強すぎるよ 君!同じくヒーロー科 轟 焦凍!!』
向かい合って立った彼が俺を睨みつけて、俺はつい 笑ってしまった。
「こういう時でも、ヘラヘラしてるんだな」
「これ?標準装備だから。まぁ、嫌なら やめてあげる」
笑顔の仮面は 今はいらない。
すっと、小さく息を吐き出して、彼を見た。
「そっちが、本性だろ」
「どうかな」
『それじゃあ、START!!!』
←|→
戻る