「あんた、いい加減にしなさいよ」

頭の上に落とされた水。

「いつになったらやめるの?」
「迷惑なのよ!!」
「仲良くないくせに、近づかないで!!」

聞きあきた罵倒を聞き流しながら、私を見下ろす女子達を見つめる。

「次は本当に許さないわよ」
「それ、聞いたの何回目かな…何回も言ってない?」
「なっ!!!?」

顔を赤くして、こちらを睨む彼女に笑顔を見せる。

「悪いけど、やめてあげない」

びちょびちょな制服のまま、私は部室に向かった。
3年の先輩が引退して以来繰り返される嫌がらせにはもう慣れてきた。

「冬に水浴びるのは寒い…」

3月に差し掛かろうとしていても今はまだ冬。
風邪をひく可能性は大いにある。
あの嫌がらせ夏からを耐えてきた私は偉いと思う。
しかも、部員にバレないように。

「さてと、頑張るか…」

ジャージに着替えて濡れた髪をタオルで乾かしながら体育館に入る。

「こんちは、ドリンクとタオル置いておくよ」
「サンキュ、寿」
「仕事だからね」

3年の先輩が抜けて、新体制になったチームは前よりもしっくりきていた。
練習を眺めながら手元のノートに色々記入する。
チームの中心にいる及川を見て、すぐに視線をそらしノートに視線を落とす。

「なんとかしないと、ダメか…」
「何を?」
「別に」

視線をコートに向けたまま背後に立つ男にタオルを渡す。

「ありがと」
「さっきまでコートにいたでしょ。何してんの」
「え?寿サンが考え事してたから。どーしたの?」

顔を覗きこんできた男の顔に張り付けられた笑顔に吐き気がする。

「近づかないで」

ノートを閉じて肩に乗せられた手を払う。

「気持ち悪い」
「つれないね、ホントに」

彼の言葉を無視して、体育館を出る。

「寿」
「監督。どうしました?」
「これ、お前には渡しておく。」

渡された封筒の中を見て、視線を上げる。

「それぞれ、データ作っておきます」
「あぁ、頼んだ」
「失礼します」

部室に戻ってから、洗濯機を回してもらった封筒の中身を出す。

「……いない」

何度見てもそこに彼はいない。

「…及川のいるここに来るわけない、か」

私は小さく溜息をついた。
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