白鳥沢に、負けた。
また、勝てなかった。
悔しさに、悲しさに彼らが涙した。
彼らの目は真っ赤に腫れていた。
けど、彼らの瞳にはまだ闘志が宿っていた。
彼らは自分の足で立って、前を見ていた。
「帰って練習するぞ!!」
岩泉の声に、みんながハイっと大きな声で答えた。
「ちょ、それ俺の役目じゃない!!?」
「お前じゃ気合入らねぇだろ」
「ひどいっ!!!」
目の前の彼らに私は言葉を失って、ただ呆然と彼らを見つめる。
だって、こんな…こんな早く彼らが立ち直るとは思ってなかったから。
負けることは闘志を、心を折るから。
彼らを低く見積もったわけじゃない。
ただ、試合が終わって1時間。
そんな速く切り替えられるものじゃない。
「どうしたんですか、寿先輩?」
国見が私を見て首を傾げる。
「え、あ…いや…」
「前の試合から思ってたけど、国見ちゃん寿さんに絡みすぎじゃない!!?」
「別にいいじゃないですか。先輩後輩なんだし」
頭が追いつかないのは、私だけ?
視線をコーチに向ければコーチは苦笑していて。
「なぁ、寿」
「は、はい…?」
コーチは私の髪をぐしゃぐしゃとなでて笑った。
「お前はお前が思っている以上にこのチームに必要とされてるよ」
「え?」
「無力だって言うけど、俺はそうは思わねぇよ」
及川が私を見て、頭を下げた。
「ごめん」
「え?」
「約束、守れなかった」
彼の声が震えた気がした。
頭を下げた及川につられるようにみんなが頭を下げて。
「IH、連れて行けなくて悪かった」
「すみませんでした」
「え、ちょ…別に、私は…」
確かに、彼らと行けたらって思ってた。
けど、それはただ私が逃げてただけで。
私の夢を押し付けただけで…
バラバラと皆が顔を上げて、最後に顔を上げた及川と視線が交わる。
「強くなるから」
「え?」
「もっと、もっと強くなるから。だから、待っててくれる?」
及川の問いかけに、私はコクリと頷く。
及川はそれを見て、満面の笑みを浮かべた。
「麗亜チャンっ!!!!」
ぎゅっと、私を抱きしめた及川。
耳元で聞こえたのは、悔しさを噛み殺して涙を堪えている及川の嗚咽。
そっと、彼の背中に手を回して。
片方の手で、頭を撫でる。
「…お疲れ様。よく、頑張ったね」
「っうん…」
「…みんなも、お疲れ様。こんな姿で言うのは…申し訳ないけど」
呆れ顔の彼らは、お前もお疲れと言って及川を引き剥がしにかかる。
やっと離れた彼の目にはやっぱり涙が浮かんでいて、私はそれから視線を逸らした。
きっと、見てはいけないものだから。
「な?言ったろ?」
「…必要と、されるのは嬉しいです」
及川を中心に騒ぐ彼らを見てそう呟いて。
「けど…」
「けど?」
「………このまま、じゃ…ダメなんです」
彼らの傍にいたい。
これはきっと紛れもない私の本心。
けど、若利が言った言葉が消えないのは…彼に指摘されたこと、それもまた私の本心だったから。
「麗亜チャン、俺達強くなるから!!だから、待ってて!!」
「…うん。…ねぇ、及川」
「何?」
首を傾げた彼に、言おうとした言葉を飲み込んで。
「…麗亜チャンって二人だけの時って言ってたかったっけ?」
「あ…」
「まぁ、今更だな」
花巻が笑えば、松川も笑って。
「てか、最近よく麗亜チャンになってね?」
「それ、俺も思いました」
岩泉と金田一も頷く。
「てっきり、わざとだと思ってました」
「及川さんにその勇気はないと思うよ」
国見と渡がそう続ける。
「ちょっと、酷くない!!?」
「まぁ、寿サンってのもなんか余所余所しいしいいんじゃない麗亜チャンで」
「え、いいの?いや、けど…」
悩む及川を横目に、控室に入る。
荷物をまとめて、小さく息を吐いた。
鞄を持った手はぎゅっと、それを握りしめた。
「もう麗亜チャンって呼ぶ!!」
「じゃあ、俺も麗亜さんで」
「国見ちゃん!!!?」
「いいですか?」
及川に絡まれながら国見が私にそう問いかける。
「いいよ、好きに呼んで」
「じゃあ、麗亜さん」
「ん。じゃあ…帰ろうか」
彼らは頷いた。
****
保護者に挨拶に行っていた監督も帰ってきて、みんながバスに乗り込む。
監督も彼らの姿を見て少し驚いていた。
「寿」
「はい?」
私もバスに乗り込もうとすれば、監督に後ろから声をかけられて振り返る。
監督の隣にコーチも立っていて、私は首を傾げた。
「どうしましたか?」
「ありがとう」
「え?」
監督とコーチは微笑んだ。
「自分のしてきたことを恥じる必要はない」
「監督…」
「寿が彼らを支えていたことは紛れもない事実だ。無力なんかじゃない。もし…悔いがあるなら次、それを糧に頑張ればいい」
はい、と私は答えて。
バスに乗り込む監督とコーチの背中を見つめた。
「麗亜チャン、早く乗って!!」
「あぁ、うん」
また…頑張らないと。
待っててと、彼らが言ったから。
私は彼らを信じて、待つだけだから。
目指すは春高。
ここから、また…再スタートだ。
prev next
back
Top