「縋りたいんじゃない、救ってほしいんじゃない、支えて欲しいんじゃない、俺と凛は…仲間じゃない」

そうだ。
俺は1度も凛と仲間になったわけじゃない。
同じレーンを繋いだことも、同じレースに出たこともない。

俺と兄さんみたいに…

俺も兄さんには縋ろうとも、救われようとも、支えて貰おうともしなかった。
ただ隣にいればいい。ただ一緒に泳いでいればいい。ただ、傍にいればいい。
競技は違えども、きっと俺達はライバルだった。
俺と兄さんはそんな関係だった。
だからお互いの差し出した手は握らない。

「対等に、肩を並べて…か。」

俺が兄さんに望んだこと。
それを凛は俺に望んでいた。
だったら、凛が水泳をやめるのをどうやって止めればよかった?
もし、アイツの傍にいれたとしてどうしたら止められていた?
俺が隣に居続ければ、アイツの名前を呼び続けていれば…お前はやめなかったのか?

「あーもう、わかんねぇ…わかんねぇけどやることはわかった」

アイツの名前を呼んで、隣に立って、それで…抱きしめてやればいい。

「もしもの話なんてしたって意味ねェって俺が一番わかってんだろ」

髪をぐしゃぐしゃとかき乱してから、走り出した。


遙さんの上から退いて、真琴さんたちを見つめている凛を後ろから抱きしめた。

「…朱希…?」

遙さんも真琴さんたちも目を見開いた。

「ごめん」
「朱希…」

凛の瞳に浮かぶ今にもこぼれそうな涙を指で拭って、強く強く抱きしめる。

「俺以外の前で泣くなって…言っただろ」

凛の体を離して遙さんを見る。

「凛、来い。今度は俺が見せてやる。見たことのない景色を」

凛が遙さんの方を見てから、こちらに視線を戻した。

「お前の仲間が手、伸ばしてんだ。掴んでやれよ」
「朱希…」
「どうせ、俺の手は今も掴まねぇんだろ?だったら…仲間の差し出す手くらい…掴めよ」

凛は目を丸くしてから頷く。
召集の時間はギリギリだ。
走って行く彼らを見送ってその場にしゃがみ込んだ。

「大丈夫ですか、朱希君?」
「んー…ダメかも」

へらっと笑って顔を膝に押し付ける。

「ちょっと…傷ついた」
「何故です?」
「俺は凛の仲間にはなれねぇんだなぁって…」

結局、俺は無力なままだ。

「それでも、凛さんには貴方が必要ですよ」
「…また、泣かせちまったなぁ…」

俺の差し出した手は掴まないのに、遙さんの手は迷わず掴む。
俺を必要としてたとしても少しだけ、傷つく。

「落ち込んでる暇はないですよ、朱希君。彼らを見ないと」
「そーだな」

怜と顔を見合わせてから頷き、走り出した。


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