「昨日の夜、凛さんに呼び出されて話をしました」
「「え?」」
「彼は言っていました。中学の時水泳をやめるって言ったのは遙先輩に負けたからじゃないって。留学先で壁にぶつかって自信を無くして…それでもう水泳はやめようと思っていたって」
握りしめていた手から力が抜ける。
やっぱり…俺が…凛から目を逸らしたから。
悩んでいるのに気づいていたのに…
何もせずに、彼の前から消えたから…
「だけど日本に帰ってきて遙先輩と再会してまた勝負してそれでって吹っ切れたって。県大会での僕達の泳ぎを見て昔を思い出してまたリレーをやろうと思ったって。だから鮫柄で最高のリレーを泳いで見せるって」
「凛ちゃんがそんな風に…」
「だけどそれは本心じゃない。彼は結局勝負なんてどうだってよかったんだ。もう1度リレーを泳ぎたかったんだ。遙先輩達と、最高の仲間たちと…」
怜の言葉に遙さんが立ち上がる。
「何故わかる?」
「それは…僕も彼と同じ気持ちだからです。貴方たちと、最高の仲間たちと共にリレーを泳ぎたい。遙先輩だって同じなんでしょう!!?勝負なんてどうだっていい、一緒に泳ぎたい人がいるんでしょう!?」
「凛と、泳ぎたい」
遙さんの言葉に怜は微笑む。
少し悲しげに、でも嬉しそうに。
「このままでは凛さんは本当に水泳をやめてしまいます。救ってあげられるのは遙先輩達だけです」
「でも、俺達にどうしろって…」
「まだわからないんですか!!?理論的に考えて答えは一つしかありません!!」
遙さんの瞳に光が戻る。
「怜、本当にいいんだな?」
「もちろんです」
「遙、さん…」
声が震えた。
「朱希…?」
振り返った彼らに頭を下げる。
「ちょ、朱希!!?」
「朱希ちゃん!!?」
「お願い、します…」
やっぱり、俺が悪いんだ。
俺が、目を背けていなければ…
傍にいれば…本当に理解者でいれたなら…
凛は、苦しまずに済んだんだ。
「凛を…救って、下さい…お願い、します…」
「朱希…」
頬を涙が伝った。
俺は…好きな奴1人、救えない。
差し出す手も持ってない。
あの笑顔も、俺が奪った。
「お願い、します…」
「凛を探そう!!朱希も一緒に!!」
真琴さんの言葉に首を横に振った。
「俺じゃ、ダメなんです…俺じゃ、凛を救えないんです」
「どうして!!?」
「俺じゃ…意味ないんです」
遙さんが俺の前まで歩いて来て、腕を掴む。
「行くぞ」
「遙さん!!?」
「凛にはお前が必要だ」
走り出した遙さん。
腕を引かれる俺も足を進める。
「ダメなんだよ、俺じゃ!!全部、俺が悪いんだよ。俺がアイツを…アイツを裏切ったから!!」
「それでも、凛は朱希を求めてる。凛には朱希が必要だ」
「俺じゃ…ダメなんだ…。もう、わかりきってるんだよ。何度も…繰り返したんだ…」
俺が手を差し出しても彼は掴まなかった。
1人で悩んで、1人で答えを探して、1人で諦めて…
些細なことでもアイツは俺の手を取ろうとしなかった。
だから、俺は手を差し伸べるのをやめたんだ。
凛が自分から縋ってくればいいって…
凛が俺を求めてくれればいいって、そう思って…
なのに1度だって助けは求めなかった。
弱さを見せた。悩んでいるってわかってた。
それでも、1度だって助けは求めてこなかった。
「凛は俺の手を掴まない!!」
「凛は、お前に縋りたいんじゃない!!お前が隣にいれば、お前が名前を呼べば…それでいいんだ!!お前と凛は仲間じゃない。救ってほしいんじゃない、支えて欲しいんじゃない、ただ何も言わずに隣にいてくれればいい。対等に、肩を並べていられたらそれでいいんだ」
足が止まった。
動かなくなった。
「朱希?」
「先に、行ってください…」
「なんで…」
「いいから早く!!凛の所へ」
遙さんは少しためらってから走り出す。
途中で真琴さんたちと別れたから俺は1人その場に残された。
「遙さん!!」
「朱希?」
「凛は…桜の木の下にいます」
「え?」
驚いている遙さんに微笑む。
「早く、行ってあげてください」
「お前も早く来い」
「…わかってます」
走り出した遙さんを見送って小さく息を吐く。
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