岩鳶に帰って凛と真琴さんたち、それからコウを家に呼んだ。
「わー、朱希ちゃんの家初めて来た!!」
「すごいシンプルだね」
「そう?まぁ、座って」
お茶をテーブルに並べてベッドに座っている凛の隣に腰かける。
「まぁ、呼んだのはあれだ…昔のことを話そうと思って」
「は?」
目を丸くした凛が俺を見る。
「お前、本気か?話したらお前…」
「だから、凛がいるんだろ?ヤバくなったら、よろしくな」
「…わかった」
お茶を一口飲んで口を開く。
「まず…凛と出会ったのは日本で言う小6が終わった頃。同じスイミングスクールに凛が入ってきた。お互い日本人だからすぐに仲良くなった」
珍しく静かに話を聞いてる彼らから視線を手元に落として言葉を続ける。
「凛過ごすうちに、凛が壁にぶち当たったことに気づいた。それ以前も何度か躓いてたことはあったけどどんなに俺が手を差し伸べても凛は俺の手を掴もうとはしなかった。だから、あの時もそうだと思ってた。けど、段々…凛が苦しそうに泳ぐようになった」
「朱希!?」
驚いている凛に一度視線を向けて言葉を続ける。
「気づいてた。悩んでるって。それでも俺が差し伸べた手はきっと掴まないって思って…苦しんでる凛から目を逸らした。それが原因で凛はどんどん追い込まれていった…」
「ちが、俺はっ!!」
否定しようとした凛に首を横に振って言葉を続ける。
「それでも俺は凛と友達だった、と思う。中1の冬2人共日本に帰省することがわかって…一緒に帰りたいって言われて一緒に帰省した」
その後の話は凛に話したことと同じだ。
震えだした手を凛は何も言わずに握って顔を伏せた。
「じゃあ…朱希君の心臓は…」
「お兄さんの…?」
「はい」
繋がれたてと反対の手で胸の辺りを掴む。
「事故にあってすぐはもう水泳やるつもりなかったんす…。けど、アンナさんが…」
「アンナさんって誰だよ?」
「凛は会ったことないけど…俺の義理の母親。アンナさんに言われたんすよ」
〜〜
「泳がなくていいの?」
「俺は…もう水泳はしない」
「そう。別に止めたりはしないわ。けど…貴方はそう思っててもその心臓はどうかしら?」
アンナさんの言葉に俯けていた顔を上げた。
「心臓…?」
「朱希のお兄さんは泳ぎたいって言ってない?」
震える手で胸を撫でる。
「兄ちゃん…」
「私は貴方のお兄さんを知らない。けど…朱希が目指した人なのよね?貴方に水泳をやめてほしいなんて思ってないと思うわ。それに…その心臓は水を求めてる」
違うかしら?と首を傾げたアンナさんに頬に涙が伝う。
「お兄さんのために…泳げばいいじゃない。いつか…朱希が泳ぎたいと思える日まで」
〜〜
「アンナさんにそう言われて、水泳をやろうと思った。順位を気にするというよりはただ兄さんにために泳ぎ続ける…そんな感じだった」
「じゃあ、どうして水泳部に?」
「合同練習に参加して、思い出しちゃったんすよ」
凛の手を離して立ち上がる。
「兄さんに勝ったらたからぼこを見せてやるって約束を」
「それで…お兄さんに勝つために?」
「はい」
クローゼットにしまった兄さんの形見を入れた段ボールを取り出す。
「この間の日本新記録と、高校新記録…前は両方とも兄さんが持ってた記録なんです」
「え?」
段ボールから出したたからばこと書かれた缶をテーブルの上に置く。
「それに勝ってこれを開けるために…俺は水泳部に入ったんです」
「もう開けたの?」
「いや、まだ…」
缶の字を指でなぞって笑う。
「…その目的が達成されたら朱希君は水泳部をやめるの?」
泣きそうな顔を俺に向けるコウに苦笑する。
「しないよ。そりゃ、これが動機だったけど…今はちゃんとみんなと仲間になりたいともってるし…泳ぎたいと思ってる」
「そっか…」
安心したようにコウは笑った。
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