「まぁ話せることはこれくらいです、多分」
「朱希」

遙さんがじっと俺を見つめる。

「本当にもう何も隠してないのか?」
「え?」
「凛との過去と、事故のこと、心臓移植、水泳をやり直すことになったきっかけ…隠していたのはこれで全部か?」

真っ直ぐと俺を見る瞳から視線を逸らす。
「お前が凛にこのことを話した時に隠したことは?」
「え?俺になんか隠したのか?」
「…いつだって遙さんいは気付かれますね」

段ボールの中から1枚の賞状を取り出す。

「賞状?」
「久瑠橋、朱希?」

その賞状を見たコウが目を丸くして俺を見た。

「この日付…この大会…1500…もしかして、これ…」
「見つからない天才スイマー」

本棚の雑誌を賞状の隣に並べて置く。

「去年の夏ごろ中3だった無名の選手が世界記録を叩きだした。その人については何もわかってない。大会側は名前を知ってるけどそれで調べても誰も出てこないから」
「この久瑠橋朱希が…朱希なの?」

驚いている真琴さんに俺は笑いながら頷いた。

「死んだ母の苗字を使って…大会に出たんです。兄さんもずっと久瑠橋の苗字で大会に出てたから真似したんすよ」

驚いている凛に俺は苦笑する。

「隠しててごめん」
「…お前は、今でも1500…泳ぐのか?」
「最近は泳いでなかったけどまた泳ぐよ。御子柴さんと約束したし」

今度こそちゃんと世界記録をとりたいし…

「そう、か…」
「あぁ、それと言い忘れてたけど…俺は事故でいくつかの臓器を欠損してる」
「は?」
「え?」

目を丸くした彼らに苦笑する。
「胃は人の三分の一しかない。だから、飯は人並には食えない。コウには話してあったけどな」
「え、じゃあ…いつもあの量しか食べてないの!?」
「そうですけど」
「それはだめだよ、ちゃん朱希!!?」

相変わらずな2人に苦笑する。
「出来るだけ頑張りますね。…話しはこれで全部です」
「…話してくれてありがとう」

真琴さんが笑った。

「僕も、聞けてよかったです」
「朱希ちゃんの過去、悲しすぎるよ〜…」
「もう、嘘吐きじゃなくなったな朱希」
「朱希君…私にも話してくれてありがとね」

泣きそうな顔をしながらも笑ってくれた彼らに俺も笑う。

「ありがとうございます、聞いてくれて。凛も、2回も聞かせて悪かった」
「俺は…別に…」

凛は俺と目を合わせてふい、と視線を逸らした。


「…また、皆さんにはお世話になります。俺が1人で泳ぐっていうのは変わらないと思うけどちゃんと皆さんの仲間になりたいです」
「一緒に頑張ろう朱希ちゃん!!」
「朱希はまず、全国大会で1位獲らないとかな?」

はい、と答えて俺は笑う。

「1500ももう1度、泳いで世界記録取り直します」
「朱希君、また一緒に頑張りましょう!!仲間として」
「おう」
「朱希君、頑張ろう?」

怜とコウも微笑んだ。
「朱希」
「はい?」
「…ありがとう」

遙さんの言葉に目を瞬かせるが微笑んで答える。
「俺もありがとうございます」
「今度は受け取れるんだな」
「はい」

いつの間にか随分と時間が過ぎていた。

「さてと、俺達はもう帰ろうか?」
「そうだな」
「じゃあ、また学校でね」

帰っていく彼らを見送って、最後に出て行こうとした凛の手を掴む。

「お兄ちゃんも帰ろう?て、あれ?」
「悪い、コウ。お前の兄ちゃんちょっと借りるわ」

腕を掴まれている凛は目を丸くして俺を見る。
コウは何か察したのかどこか嬉しそうに笑った。

「頑張ってね、朱希君」
「頑張る」

驚いて立ちすくむ凛の手を引いて部屋に戻りベッドに座らせる。

「なんだよ…」
「凛にはまだ話がある」

目を合わせようとしない凛の前の床に座って凛を見上げる。

「俺の話は聞きたくねぇか?」
「そうじゃ、ねぇけど…」
「だったら、聞いてくれ」

交わった視線。
凛は泣きそうな顔をして唇を噛んだ。


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