気付いたらまた朝だった。

「また夕飯食い損ねた…」

溜息をついて制服に着替えて、缶に手を伸ばす。

「いつからこんなに弱くなったんだと思う?」

返事なんかあるはずもなくて、俺は一人家を出る。

「昼飯、どうすっかなぁ…」

流石に昨日の夜から何も食べてないのはあれだしな…

ふらふらと歩きながら学校に向かって一番に見えたのは水泳部の人達と赤眼鏡君だった。

「校門でなにしてんだろう…」

彼らに気づかれないように顔を伏せてウォークマンの音量を上げた。



真琴視点

「仮入部でよければその合同練習に行ってあげてもいいです」

そう言った竜ヶ崎君に渚は嬉しそうに笑った。

「あ、御影君…」

真っ黒なヘッドホンをして俯く御影君は俺達の横を通り過ぎていく。

「真琴」
「どうしたの?」
「…アイツ、入れたいんじゃないのか?」

ハルはじっと御影君を見つめる。
「うん。けど…竜ヶ崎君が入ってくれるなら無理には…」

ハルの視線が俺に向けられる。
「…ごめん、行ってくる」
「ん」

少し離れた背中を追いかける。

「御影君!!」

下駄箱でヘッドホンを外した御影君が溜息をつく。

「なんで追いかけてくるんすか…」

下駄箱を閉じて、こちらを見る。
「いや、なんでって言われても…」

めんどくさそうな瞳から目を逸らすと、御影君の下駄箱が視界に入る。

「御影…朱希?」
「そうっすけど…なんすか?」
「男の子なのに女の子みたいな名前…」

渚がよく言っていた言葉がつい零れる。
「そうっすか?日本人の名前って、性別の区別難しいっすよね」
「え、あぁ…うん。それで…御影君」
「水泳部っすか?」

御影君の言葉に頷く。

「…どうして俺に拘るんすか?」
「わかんない。けど…一緒に泳ぎたいなって」
「だから、水泳は一人でやるものっすよ」
「一緒に来るだけでもいいから。お願いします」

勢いよく頭を下げる。
頭上から聞こえたのは溜息だった。
「…わかりましたよ」
「え!!?いいの?」

驚く俺に御影君はめんどくさそうに目を逸らす。

「なんでもお返しするって言ってましたよね?」
「え、うん」
「…合同練習には行きます。けど、それ以降俺を水泳に引きいれないでください」

御影君はどこか悲しそうに顔を歪める。
「…わかった」
「なら、よかったっす。じゃあ、俺は…教室行くんで」

背中を向けて歩いて行く御影君はどこかふらふらと覚束ない足取りだった。
「御影君…?」


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