「会うのはまた今度な」
『…ん…てか、朱希…なんかあったのか?』
「何が?」
『…なんか、今日は優しいから…』

言いにくそうに言った凛に自分の掌を見た。

「…今日だけだ」
『え?』
「もう、電話も出ないし…優しくもならないよ…きっと」

俺の言葉に凛が俺の名を呼んだ。

『嫌だ』
「なんで?」
『好きな、奴に…冷たくされる俺の身になれ…』

…好きな奴…
ん?
もしかして、凛…

「まだ俺のこと好きなの?」
『っ!!!さ、さらっと言うな!!!!』
「お、前…ホント馬鹿だな」


遥さんの家の方と逆の自分の家の方に足を向ける。

『馬鹿ってなんだよ!!?』
「さっさと、嫌いになればいいのに。裏切ったって、罵ればよかったのに」

朱希に、未練と罪悪感があるからじゃないかな?
真琴さんの言葉が電話と逆の耳から聞こえた気がする。

『んなこと、できねぇよ』
「なんで?」
『お前に…まだ、優しさがあるから』

優しさ…
優しさなんかあったか…?

『…朱希は、変わっちまったけど…根本は変わってない』
「なんだそりゃ…」
『…朱希…俺は、お前を忘れない。きっと、いつまでも』

凛の声が震えてるのが電話越しでも分かる。

「……ごめんな、凛」
『朱希?』
「やっぱり、俺は…忘れて欲しいわ」

心臓の辺りの制服を握りしめて自嘲するように笑う。

『なんでだよ…』
「それがきっとお前のためになると思う。…じゃあ、もう切るぞ」
『ちょ、待てよ朱希!!』
「今日はマジで助かった。サンキュ」

返事も聞かずに電話を切って、頬に伝うものに気づく。

「だせぇ…」
なんで泣いてんだよ、俺…
擦っても擦っても止まらない涙に、その場に蹲る。

手に持ったままの携帯は凛からの着信を知らせ続ける。
留守電に切り替わった携帯から凛の声が聞こえる。

『おい、朱希。お前、どうせ聞いてんだろ?いいから出ろ!!』

胸の辺りを強く握って、目を瞑る。

「未練も、罪悪感も…あるに決まってんだろ…それでも、それでも…」

お前を苦しめたくはねェんだよ…
たとえ、お前と自分を傷ついても…
お前にこんなものは背負わせたくない。


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