合宿が終わり、高校のプールでの練習が再開された。

「朱希は何に出る?」

プールから上がった俺に真琴さんがそう問いかけた。
手にはエントリー用紙。

「朱希ってクロールが専門なんだよね?」
「なんで知って…あぁ凛が言ってたのか」
「うん。クロールってことはフリー?ハルと被っちゃうよね」

どこか困った顔の真琴さん。
「被らないっすよ」
「え?」

濡れた髪をタオルで拭いて真琴さんの手の中の用紙を覗き込む。
「俺、フリーにはでないんで」
「出ないの!?」
「どうしたんですか?」

驚いた真琴さんを不思議に思ったのか、こちらにやってきた松岡。

「江ちゃん!!朱希がフリーには出ないって」
「えぇ!!?なんで!!?」
「…フリーを泳ぐ気にはならないから。俺は個人メドレー400でお願いします」

驚きながら用紙に描いて行く真琴さんから視線を自分の水着に向ける。

「大会って、この水着ダメでしたよね」
「あ、うん。ダメだよ」
「……了解っす」

そろそろ、背中の傷について話さないといけないのかな…


家に帰ってから、ジャージに着替えて外を走りに行く。
水泳をやっていなかった時期も日課としてやっていたランニング。

タイムを見ながら、ペースを崩さないように走ってある場所へ向かう。
海の見える丘。
そこに並ぶ沢山の墓石。
迷うことなくいつもの場所に行って、そこにしゃがみ込んだ。

「また来たよ」

途中で買ったお供え物をそこに置いて刻み込まれた名前を見つめる。

「今日大会のエントリーがあって、俺は個人メドレーの400に出ることにした。」

返事なんか聞こえてこない。
聞こえるはずはない。
けど、俺は言葉を続ける。

「大会まであと少しあるけど、まぁ楽しみに待ってて。たからばこ、約束守ってから開けるから」
それだけ言って、立ち上がる。

「それじゃあ、また来るから。じゃあ」

今走ってきた道をまた戻っていく。

「勝たないとなー…」

両耳にイヤホンを差し込んで、小さく息を吐く。

「早く帰ろ」


戻る

Top