「凛」
「なんだよっ!!」
苛立ちを含んだその声に俺は溜息をついて凛の手を掴む。
「おい、朱希!!離せっ!!お前には関係ねぇだろ」
「俺がそう言ったら、お前は素直に俺を離したのかよ!?」
「それ、は…」
目を逸らした凛の腕を引いて人のいない通路に入る。
「なん、だよ…」
壁に背中を預けて俯いた凛の髪を優しく撫でる。
「朱希…?」
「お前さ…色々頭ん中ぐちゃぐちゃだろ?んな、状態だと他の奴に当たんだろ」
「なっ!!?」
「少し落ち着けって」
松岡にやったようにポンポンと頭を撫でて、手を下す。
「悪い…」
「いいよ、別に」
さてと、落ち着かせるのはいいけど…
話すことないんだよなー…
「朱希」
「ん?」
「もう、平気だから…悪い」
そう言ってこちらを見た凛の目は再会した時と同じように悲しそうに揺れていた。
「…凛ってさ、本当に嘘つくの下手だよな」
「は?なに、いきなり…」
泣きそうなときは会いたくねぇって言ったけど、この状況を作ったのは俺だしな…
もう1度凛を頭を撫でて、俺は笑う。
「…泣くなよ」
「泣いてねぇよ!!」
「…もし、泣くんなら…慰めてやるけどどうする?」
「泣かねぇよ!!」
顔を紅くして歩いて行ってしまった凛に苦笑して時計を見る。
もうそろそろ真琴さんのレースが始まる。
遙さんを…連れ戻さないといけないかな…
来た道を戻って、遙さんを探すと自販機の前でぼんやりとしている遙さんを見つけた。
「遙さん」
「…朱希…」
「遙さんは、何のために泳いだんすか?」
横に立つ俺に視線を向けることなく遙さんは口を開く。
「自由に…なれると思ってた…」
「なれなかったんすか?」
「…あぁ」
遙さんに瞳はいつもの水の色より少し濁って見える。
「真琴さんの試合始まりますよ。行かないんすか?」
「俺はいい」
「…きっと、真琴さんは遙さんにも見て貰いたいと思ってますよ」
遙さんの髪から雫が落ちて頬を伝う。
まるで、泣いてるみたいだ…
お互いに無言になった時聞こえてきた足音。
「あぁ、ハルちゃん!!ここにいた。マコちゃんの試合始まっちゃうよ!!早く行こう」
「俺はいい」
「良くないよ!!行こう!!」
遙さんの手を渚が掴んで走り出す。
「朱希ちゃんも行こう!!」
「あぁ…」
2人を追いかけて観客席に行けばもう試合は始まっていた。
泳いでいる真琴さんを見つめる遙さんを見て渚は嬉しそうに笑ってこちらを見た。
「行こう、朱希ちゃん」
「あぁ、行く」
その場所から動かない遙さんに苦笑しながらみんなの場所に戻って応援に参加する。
ゴールした真琴さんのタイムはギリギリ入賞タイムに届いていなかった。
渚のブレも決勝には進めなかった。
その次の竜ヶ崎も飛び込みの際にゴーグルがズレたらしく、決勝へは進めなかった。
彼らのレースを遙さんはただじっと、見つめていた。
←|→ | 戻る
Top