もう隠す必要もなくなったから、普通に部室で着替え始めれば背中に視線を感じた。
そして、ペタッと何かが触れる。
「…どした?」
「痛そう…」
「ちょ、渚!!?」
俺の背中の傷をなぞる渚。
それを止めようとする真琴さん。
「…もう痛くねぇよ」
「火傷もあるんだね…」
「まぁな…」
心配そうに俺を見る真琴さんに小さく笑う。
「火傷と、切り傷…あとは刺し傷とか…そんな感じ。所々皮膚が移植されてる場所もある」
「そっか…ごめんね、気付けなくて」
「気づかねェようにしたのは俺だし…それに、渚の声援嬉しかったから」
「え?」
驚いて目を丸くする渚の頭を乱暴に撫でて水着に着替える。
いつものゴーグルを持って外に出れば、松岡がニコニコして立っていた。
「な…なに?」
「なんでもないよ」
「…ならいいけど」
松岡の横を通り過ぎて、プールサイドで体を伸ばす。
「これからは主にドリルを行います」
部員が集まって松岡の言葉を聞く。
その中に、遙さんはいない。
「怜君の課題はキックの強化です。渚君はスクロールの強化を徹底的にやります。真琴先輩は加速をスムーズにするための練習を」
「わかった」
「それで…朱希君なんだけど…」
松岡が俺を見て困った顔をした。
「なに?」
「朱希君はみんなよりもいい感じなんだけど…練習の時と本番の時の泳ぎが全然違ったの」
「え?」
泳ぎが違う?
真琴さんたちもそうだったねと言う。
「クロールはいつも通り朱希君らしい丁寧な感じだったんだけど…他のやつは力強くて豪快な…真琴先輩みたいな泳ぎだった。練習の時も本番と同じ泳ぎをしてくれたらいろいろ言えるんだけど…」
「あー…少しやってみる」
「うん、よろしくね」
真琴さんみたいな力強い泳ぎって…もしかして…
「それじゃあ、ウォーミングアップから開始です。て…あれ?」
水の中から出てきた遙さん。
「ハル!?」
「もう来てたんだね」
松岡が遙さんにタオルを渡す。
「ハルちゃん、スゴイやる気だね」
「それともフリーで負けたのが悔しかったからでしょうか…」
「かもしれないね…」
やる気になって嬉しいですと告げた松岡に遙さんは否定の言葉を零した。
「わからなくなったから、泳いだ。水のことは水に聞こうと思って…」
「それって、どういう「じゃあみんな揃ったし練習始めようか」」
真琴さんが松岡に言葉を続けさせないように言葉を重ねた。
「あ、そうですね…じゃあ、各自軽いウォーミングアップから」
練習を始めた彼らを見てから遙さんの傍に行く。
「あの、遙さん」
「なんだ?」
「この間はありがとうございます」
遙さんは少し目を丸くして、いやと視線を逸らす。
「ちゃんと、話せたのか?」
「まぁ、一応。でも俺は…アイツに嘘を吐いちゃうみたいっす」
「…俺達にも、だろ?」
「…そうっすね。俺は嘘吐きなんすよ…」
遙さんに、本当に助かりましたと言ってプールに飛び込んだ。
一通り泳いで松岡を呼ぶ。
「どう?」
「やっぱり違う」
「…そっか…」
「大会の時クロールは遙先輩みたいな綺麗な泳ぎ、それ以外は真琴先輩みたいな力強い泳ぎ。まるで別人だったよ」
松岡の言葉を聞いて溜息をつく。
「…別人かぁ…」
「うん」
「別の人が泳いでんだろうなぁ…きっと」
胸の辺りを撫でて溜息をつく。
「別の人がってどういう事?」
「いや。気にしなくていいや」
兄さんの泳ぎは真琴さんの泳ぎに良く似ている。
豪快な力強い泳ぎ…それが兄さんの泳ぎだった。
きっと無意識に体が兄さんの泳ぎを真似ている。
もしかしたら、兄さん自身が心臓から体を動かして言うのかもしれない。
けど、それで兄さんに勝っても意味なんかない。
俺は俺として兄さんに勝たなきゃいけないんだ。
「兄さんの力を借りずに…」
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