「何見てるの、朱希君」
「え?あ…いや…」
「見つからない、天才スイマー…?あ、これニュースにもなったよね。名前も公表されてないんでしょ?」
「あ、あぁ…そうみたい」

お昼ご飯を持って松岡が俺の前の席に座る。

「一緒に食べていい?」
「いつもの友達は?花村さんだっけ?」
「委員会だって」
「そう。別にいいよ」

やった、と嬉しそうに笑ってお弁当を開けた松岡。
「この選手、朱希君と一緒で背中に傷があるんだね」
「みたいだな…」
「もしかして、朱希君だったりする?」
「まさか。俺は1500mは泳がねぇよ」

何だ、残念と笑いながら言う松岡から視線を逸らす。
この雑誌、もし凛が見たらバレるだろうなぁ…

「そういえば、朱希君ご飯は?」
「ん?さっきウィダー飲んだけど」
「それだけ?」
「あぁ、そうだけど…」

俺の言葉に松岡がバンッと机を叩いた。

「ダメ!!ちゃんと食べないと」
「いや、俺飯食えねぇんだよ」
「体力もたないでしょ!!」
「それは、そうなんだけど…」

頬杖をついて雑誌を捲る。

「松岡には…一応言っておくけど…」
「え?」
「俺さ、ただ小食なんじゃなくてさ…食べれないんだ」

首を傾げた松岡に視線を向ける。

「俺の胃は人の三分の一しかないんだ」
「は?」
「背中の傷…できたときにな…胃の三分の二を切除した」

見開かれた松岡の瞳に苦笑する。

「嘘…」
「本当だよ。…他にも何か所か内臓に欠損がある」
「知らなかった…」
「まぁ、俺が話してねェからなぁ…」

雑誌のあのページを開いて溜息をつく。


「背中の傷のことも、みんなに話そうとは思ったんだ」
「本当に?」
「けど…昔のことを思いだすとさ…震えが止まらなくなるんだよ」

自分の右手を見て、ぎゅっと握りしめる。

「俺じゃ、震えを止められない」
「じゃあ…どうやって…」
「凛が…いれば止まるんだよ。だから…お前らに話すときには凛がいないと駄目なんだ」

雑誌を閉じて笑う。

「そういうことだからさ…ごめんな」
「…朱希君が話そうと思ってくれただけで嬉しいよ」
「そうか…」

松岡はどこか嬉しそうに笑う。
「やっぱり、朱希君にとってお兄ちゃんは特別なんだね」
「んー…特別なぁ…まぁ、強ち間違ってねェかな」
「お兄ちゃん、聞いたら喜びそう」

凛には言ってやらないけどな…
視線を窓の外に向けて俺は溜息をついた。





放課後に練習をしていればどこか慌てたように松岡が走ってきた。

「大変です!!お兄ちゃんが地方大会リレーに出るって!!」
「「「えぇ!!?」」」

凛が…リレーに…
そっか。アイツなりに答えを出したんだ…


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