「明日…ついに地方大会だよ」

兄さんの墓の前に座ってそう呟く。

「今回は兄さんの力、借りずに勝ってくるから。あ、けど…ゴーグルはまだ借りてるな」

兄さんの形見の黒いゴーグルを握りしめて笑う。

「じゃあ、いってきます」

緩く吹いた風が俺の髪を撫でた。

待ち合わせの場所に行けばすでにみんな揃っていた。

「あ、朱希!!遅いよ」
「すみません。少し寄るところがあって」
「それじゃあ、みんな揃ったわね。私たちは明日の朝一で会場に向かうから」
「皆さんは会場近くのホテルでゆっくり体を休めてください」

天方先生の少し残念な名言を聞き流しながらコウ達に近づく。

「どうしたの?朱希君」
「ん?いやね、花村さんにお礼をね」
「え?」

驚いている花村さんに微笑む。

「わざわざ来てくれてサンキュ。部員じゃないのに何かと手伝ってもらってたし」
「私がしたいからしてただけで…」
「それでも、俺らは助かってたから。ありがとな」

髪型を崩さないようにポンと撫でて、到着したバスに乗り込む。

「朱希ちゃんってタラシ?」

バスに乗り込んですぐに渚にそう聞かれて首を傾げた。

「なんで?」
「今頭ポンっって撫でてたし…江ちゃんのこともよく撫でてるし…学校でもクラスの女の子に対して優しいよね?」
「そう言われれば、朱希が女子の手伝いしてるとことかよく見るかも…」

通路を挟んで隣の席に座っていた真琴さんがそう零す。
「俺も、女子といるところよく見る」
「ハルも?」
「あぁ」

彼らの視線がこちらに向く。
「…なんすか?」
「いや、ちょっと気になっちゃって」
「んー…女子にはよく話しかけられますけど…それに女子に何かさせておいて男が暇してるって言うのもあれなんで手伝ったりとかしますけど…タラシじゃないっすよ?」

俺の言葉に彼らは顔を見合わせる。
「…天然タラシ?」
「そのようですね」
「朱希ちゃん入学してからどれくらい告白された?」

渚の質問にまた首を傾げた。
「んー…5人?いや…6人くらい?」
「全部断ったの?」
「まぁ。俺よりもいい人なんてもっといるし、その子を幸せにしてくれる相手を探してほしいじゃないっすか」

笑いながらそう言えば溜息をつかれた。

それに…俺は凛が好きなわけだし…
女の子の相手をしてたらコウに怒られそうだし。

辺りが暗くなってから会場近くに到着した。
ホテルを見つけるまでに随分と時間がかかった。

じゃんけんに勝った俺は1人部屋なんだけど…

「広いなー…」


着替えを終えてベッドに腰掛けていればノックの音が聞こえた。

「朱希ちゃん!!準備できた?」

ドアが開いて4人が入ってくる。

「夕ご飯、何にしますか?」
「こういう時に食べるものと言えば…」
「かつ丼だねっ」

夕飯を終え、帰りに高台からプールを眺める。

「すごい…」
「大きいな…」

彼らの視線はプールに釘付けになっていた。

「明日あそこで泳ぐんですね」
「あぁ…」
「なんか僕ドキドキしてきた」

青く光るプールを眺めながら鼓動が速くなる。
兄さんもあんな所で泳いでいたんだろう…

「待っててね、兄さん」

小さく零した言葉。
誰にも聞かれることはなかっただろうけど、きっと兄さんには届いてるだろう。


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