冬の寒さを残した、春が近づくある日のことだった。
3年の先輩の卒業を目前にし、体育館で3年VS現メンバーの試合を行った。
接戦で負けた俺達は悔し涙に寂しい気持ちを隠して泣いた。
先輩達も俺達と同じように泣いて、また遊びに来ると期待していると俺達の背を押した。
俺は元部長から部長の役職と連覇へのバトンを受けとり、新たな体制で明日からの日々を迎える。

昼間の騒がしさが嘘みたいに静かになった体育館の鍵を閉めて、自室に戻ってからランニングのために外に出た。
毎日欠かさず走る海沿いの道を目指して走り出そうとしたとき校門の横に人がいるのに気づく。

「…何してんだ?」

俺の声にランニングウェアを着た彼は視線をこちらに向ける。

「ちょっと人を待っていて…」
「ふぅん…」

綺麗な顔をした男で、俺は首を傾げる。
なんか、どっかで見たことあるような…

彼の顔を凝視したまま首を傾げた俺に彼も首を傾げる。

「あの…?」
「俺、お前に会ったことあるよな」

俺の言葉に彼は目を瞬かせる。

えっとどこだっけ…
彼の顔を見ながら考えていれば段々と浮かび上がってくる記憶。

「あれは…俺が中3の時だから…2年くらい前?病院で会ったことあるだろ」
「病院?」

そう、病院で。
俺はちょっとした怪我で入院をしていて、リハビリをしていたとき。
彼に良く似た少年がいた。

「憶えてねェ?よくリハビリ一緒だったろ」
「リハビリ……あっ!!大和さん?」
「そう、それ。えっとお前は…御影、朱希だったっけ?」

はい、そうですと彼は頷いて笑った。

「俺のが先に退院したけど元気そうだな。会ったときはまともに歩けなかったろ?」
「はい。今は多少の後遺症はありますけど元気です。水泳部なんですよ」
「へぇ、そうなのか。ここには部活の関係できたのか?うちって水泳部強かったろ?」

間違ってはないけど、あってもいないです。
彼はそう言って困ったように頬を掻いた。

「凛、えっと…松岡先輩を待ってて」
「松岡?知り合いなのか?」
「はい、まぁ」

頷いた彼はほんの一瞬だけど酷く優しい顔をして俺はなんとなく全てを悟った。
まぁ、男子校にいるとそういうのには耐性があるし…

「凛、じゃなくて…松岡先輩とは知り合いなんすか?」
「いつもみたいに呼べばいいよ。松岡とは同じクラスだったよ。まともに話したことねぇけど」
「そうなんすか。…なんか、世間って狭いっすね」

本当にそうだな、と俺は笑う。

「ま、ここで会ったのもなんかの縁だろ。ライン教えてくれよ」
「え、あぁはい」
「学校での松岡の写真、撮れたら送ってやるから」

俺の言葉に彼は困ったように、でも照れくさそうに笑った。

「瀬尾大和…」
「そういや苗字知らなかったっけ?ま、好きに呼んで」

彼は頷いて、視線を俺の後ろに向ける。
その表情は緩んでいて俺は笑いそうになるのを我慢しながら口を開く。

「来たみたいだな、松岡」
「はい」
「じゃあ、また。機会があれば」

手をあげて、彼に背を向ければペコと小さく頭を下げた。
走り出してから少しして振り返れば御影に抱き着く松岡が見えた。

「やっぱり、そういうことか」

まぁ…あれだな。
松岡でもあんな顔するのか…

ちょっと珍しいものを見た、とまた笑いそうになるのを堪えて俺はスピードを上げた。





転校生が来る。
そんな、学生だったらワクワクしたり期待を抱くような言葉を聞いても浮き足立たないのはあれだ。
ここが男子校だからだろう。
どうやったって、可愛い女の子が入ってくることはない。

頬杖をついて机の下、スマホの画面をつける。
緑色のアイコンをタップすれば先日再会した御影からメッセが届いていた。

『松岡と付き合ってんの?』

悪戯心に任せて送った文章。
それに返事か来たようだった。

『何でっすか?』
『松岡の話をする時の御影が、幸せオーラ出してたからw』

そう返信をすればすぐに既読の文字が浮かぶ。

『…他の人には内緒でお願いします』
『流石にバラすようなことはしねぇよ。お幸せに』

俺はそう、返信をして目の前にある彼の背中を見つめる。

それにしても、松岡が男と…かぁ…
意外っつーか、なんつーか。

『ありがとうございます?』
『いえいえ。そういや、今年も松岡と同じクラスだった。席前後』
『仲良くしてあげてくださいね』

それが恋人のセリフか、と俺は少し笑いそうになった。

そんなときドアが開いて先生と見覚えのない男が入ってくる。
山崎宗介、と書かれた黒板を見てからその男に視線を向ける。

「宗介…?」

小さな声で彼の名前を呼んだのは目の前の男、松岡だった。
転校生の彼も松岡の方を見て目を僅かに丸くさせてから、綺麗な笑顔を見せた。

知り合いか?
まぁ、俺には関係ないか…

既読をつけたまま少しの間視線を外していた画面に視線を戻してテンキーをなぞる。

『機会があればな』

そう彼に送れば、機会があればお願いしますと返信があり俺は携帯を切る。

視線を窓の外に向け、突き抜けるような青空に目を細める。

新入部員の勧誘、しねぇといけねぇな…

これから忙しくなりそうだ、と小さく息を吐いてから視線を黒板の方に向ければなぜか転校生君とばっちり目が合ってしまった。
松岡のことを見ているのかとも思ったけど確実に目が合ってる気がする。

逸らすのも失礼な気がして小さく頭を下げれば彼も同じように頭を下げた。


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