休み時間廊下を歩いていれば、外に転校生と松岡がいるのを見つけて足を止めた。
突然2人が腕を上げたから殴り合うのかと思ったが2人は腕をぶつけ合って、笑顔を見せた。

「ふぅん…仲良いんだあの2人」

まぁ、俺には関係ないことだけど。
ポケットに手を突っ込んで、教室に戻ろうとすれば偶然擦れ違った部員が駆け寄ってきた。

「大和さーんっ!!」
「お?どうした?」
「新入部員、どんな感じっすか?」

顧問に聞かねェとわかんねぇよ、と言えば唇を尖らせる。

「楽しみだったのになーっ」
「聞きに行くか?今から。暇だし」
「いいんすか!!?行きますっ」

教室へ向かっていた俺は方向を変えて、階段を下りる。

「楽しみっすねー、後輩!!」
「お前より上手かったらどうすんの?」
「ちょ、やめてくださいよ!!」

自分より少し低い位置にある頭をかき混ぜれば彼は擽ったそうに笑った。

職員室に行って顧問を呼べば、満面の笑みで顧問が出てきて俺達は顔を見合わせる。

「どうしたんすか、そんな笑顔で…」
「聞いて驚けよ、瀬尾!!今回の新入部員の数は水泳部に次いで2番目だ!!」
「おっ、そんなに入ったんすか?」

よかったな、と隣に並ぶ後輩に言えば嬉しそうに笑った。

「近くにある強豪校からも随分と来てくれていてな。今日から参加できる奴は参加するからよろしく頼むぞ」
「了解です。お前、スタメン取れるように頑張れよ?」

後輩は絶対に譲りませんっ!!と宣言をした。
他の奴にも教えてきますね、と走って行く彼を見送って今年は大変になりそうだなと溜息をつく。

「あ、」
「ん?」

聞こえた声、視線をそちらに向ければ転校生の彼がいた。
名前は確か…

「山崎?」
「おう。山崎宗介。お前同じクラスだったよな?」
「松岡の後ろの席の瀬尾大和。よろしくな」

よろしく、と彼は言って俺を上から下まで眺めた。

「どうした?」
「いや、背…高いなって」
「山崎もそう変わらないだろ。つーか、職員室になんか用があったんじゃねェの?」

頷いた彼は水泳部の顧問を、と呟く。
職員室を覗けば目的の人は近くにいて声をかける。

「杉本先生、生徒来てますよ」
「あぁ、ありがとう」
「んじゃ、またな。山崎」

手をひらひらを振って教室に歩を進める。
サンキュ、と彼の声が聞こえた。





放課後の部活。
体育館に来た1年に俺は若干顔を引き攣らせた。
新入部員、多いどころの話じゃねぇな。
メニューも新しく考え直さなきゃダメそうだ。

そんなことを考えながら手元にあるプリントを見ながら溜息をつく。
練習途中で顧問に渡されたプリントは何故か2枚あって。
水泳部の部長に届けて欲しいと言われた。

「プリントぐらい自分で渡せよな…マジで」

滅多に来ることのない室内プールのドアを開ける。
体育館とは違った空気感にどこか居心地の悪さを感じた。

「えーっと、水泳部の部長って…誰だ?」

部長に渡せって言われたけど、そういや誰だろう?
適当に誰かに聞けば…

「あ、おーい。そこの子」
「は、はいっ!!?」
「練習中ごめんなー」

部長呼んでくれるか、と言えば彼は「凛先輩、呼んでますよ」と声をかけた。

ん?凛先輩って…

「愛。呼んでるって誰が?」
「この人です」

あぁ、やっぱり松岡だ。
上半身裸の彼は俺を見て首を傾げる。
つーか、ガタイいいな…

「お前…」
「これ、部活動紹介のことについての資料なんだけど、今渡さねぇ方がいい?濡れんだろ」
「いや、平気」

プリントを渡せば彼はそれに視線を落として眉を寄せた。

「この部長挨拶って何言うんだ?」
「んー…毎年部活の紹介とか戦績とかかな」
「…了解。悪いな」

別に平気、と答えてさっさと体育館に戻ろうとすれば俺を呼ぶ声が聞こえて足を止めた。

「あ、山崎?水泳部入ったのか?」
「まぁな」

何してんだ?と尋ねられてプリント渡しに来たんだよと言えば松岡の持つプリントを覗き込んだ。

「瀬尾、部長なのか?」
「一応な」

山崎の後ろに時計が見えて「あっ」と声を漏らす。

「どうした?」
「やべ、休憩時間終わる。悪い、またな」
「あ、あぁ…」

俺は慌てて室内プールを飛び出した。
あの空気感はどうにも肌に合わないな。

「まぁ…体育館も蒸し風呂みてぇで好きじゃねぇけど…」





「知り合いなのか?」

出て行った瀬尾を見ながら凛がそう呟く。

「知り合いってほどじゃねぇよ。同じクラスだろ?少し喋っただけ」
「あぁ、同じクラスだっけ…」
「憶えてねぇのかよ」

話したことなかったからな、と言った凛に俺は溜息をついた。

「お前、友達いたか?」
「いたっつーの!!アイツの周りはいつも人がいるからわざわざ声かける必要ねェってだけだよ」
「いつも人がいる?」

あぁ、と頷いた凛はプリントをベンチに置いてプールに戻っていく。

「先輩後輩関係なくアイツは声かけられてたし。休み時間1人でいることなんて滅多になかった」
「へぇ…アイツ何部なの?」
「あー…確か、バスケ。去年の最後の大会で優勝してた気がする…」

バスケか…
だから背、高いのか。
俺と同じ目線の奴なんて珍しいからな…

「つーか、喋ってねェでさっさと泳げ」
「わかってるよ」

悪い奴ではなさそうだし今度話しかけてみるか、なんて思いながら凛に怒られるより前にプールに飛び込んだ。


戻る

Top