青空を切り裂くような警報
「今日はいい天気だな」
開け放たれた窓から吹き込んだ風が頬を撫でて、髪を揺らす。
青空を切り裂くような警報が遠くで聞こえてきた。
「また、攻めてきたみたいだ…」
慌ただしくなっていく外の音を聴きながら俺は窓際に歩み寄る。
上空に浮かぶトリオン兵に俺は眉を寄せる。
「…いつもとは違う奴だよ」
返事がないことにはもう慣れた。
「ちょっと行ってくる。また来るからな」
窓とカーテンを閉めて、俺はその部屋を後にした。
外に出て空を見上げる。
大きな体をゆっくりと揺らしながらそれはくるくると周回をしているようだった。
街は所々壊れていて、俺は走り出した。
「大丈夫?」
たどり着いた先。
ドアを開けて中に入れば泣きじゃくる声が聞こえる。
「不吹君!?」
「やっぱり、逃げられてなかった」
建物のなか、残されたのは10人近い子供たちと先生。
「ここの上空を回ってるの見えたから。…子供たち全員を連れて外に出るのも危ないし」
「けど、逃げないと…」
先生の言葉に俺は微笑んで、ポケットの中のトリガーを取り出した。
「全員、こっちに寄って」
子供と先生が全員近くにいることを確認する。
「…トリガー起動」
自分達の頭上を覆うように作ったシールドに子供達は目を丸くした。
「すっげぇ!!」
「ありがとう。けど、これも完璧なものじゃない。皆頭を隠して」
素直に頷いて、頭を隠す子供達に先生は安心したように肩の力を抜いた。
「ありがとう、来てくれて。どうなるかと思ったわ」
「俺にできることなら、なんでもしますよ。…お世話になりましたから」
少しして、大きな音と地響きがした。
そして、静かになった外に俺はシールドを解除する。
「…収まったみたいです。また何か起こる前に避難してください」
「ありがとう、不吹君。さぁ、皆行きますよ」
ありがとう、と手を振る彼らに手を振り返して俺は大きく息を吐いた。
「ごめんね、先生。利用するような形になって」
手の中のトリガーをぎゅっと握りしめる。
「…さてと、本部に行くか…」
▽
本部に着いて。周りを見渡せば見覚えのある男が俺に気付いた。
「榎本。どうしてお前がここにいる?」
歩み寄ってきたのはボーダー本部長の忍田さんで。
一応俺の知り合いだ。
「これ、返します」
そう言ってトリガーを差し出せば彼は眉を寄せた。
「なんの真似だ?」
「無断でトリガーを使用しました。だから、処分を受けに」
「…確認を取る。ついて来い」
彼の後を着いていけば会議室に連れていかれた。
「どうした?」
城戸本部司令と知らない隊員しかいないその部屋に足を踏み入れ、俺は隣に立つ忍田さんに視線を向ける。
「トリガーの無断使用で出頭してきました」
「…またか」
「現在確認中ですが…」
彼の言葉の途中、ノックの音が聞こえる。
「無断使用の確認、取れました」
「…そうか」
自分に向けられた城戸本部司令の視線に少し居心地の悪さを感じる。
「何に使った?」
「自分の命を守るために」
「そうか。…ルールを守れないものは必要ない。規則に従い、処分を下す」
彼の言葉の頭を下げて、 忍田が受け取らなかったトリガーをデスクに置いた。
「お世話になりました」
案外あっさりと対応したからか、本部司令の隣にいた男は微かに表情を変えた。
「…失礼します」
「おい、榎本!!」
会議室を出れば忍田さんも俺を追いかけてきた。
明らかに怒りの浮かぶ彼の表情に俺は笑った。
「お前、わざとか?」
「まさか、そんなわけないだろ」
あぁ、そうだ。
ここでは敬語を使わないといけないんだった…
「そんなわけ、ないですよ。今回、あの空を旋回していたトリオン兵が崩した建物の下敷きになりそうになったので使用しました」
忍田さんはじっと俺を見つめてからため息をついた。
「…お前をやめさせる訳にはいかない」
「たかが、C級隊員ですよ?そんな執着を見せたらダメでしょう?」
彼が俺を辞めさせたくない理由はわかっている。
だからといって、言うことを聞くつもりはない。
「お前はっ!!」
「忍田さん」
「……処分は変えてもらう。お前は家で大人しくしてろ」
余計なことをしないでください。
俺の言葉に彼は俺の肩を掴んだ。
「自分が何を言っているのかわかっているのか!?!!それは「忍田さん。ここは本部ですよ」……すまない」
彼は俺の肩から手を離した。
「…失礼します。お世話になりました」
俺は彼に背を向ける。
彼はもう何も言わなかった。
prev next
back
Top