全てを託したのは誰だ?
新型のトリオン兵を破壊し終われば、黒いのは三雲を追いかけていった。
俺もその後を追うべきか、とも思ったがここに残る新型を倒してからでも遅くはないだろう。
「何それ、格好いいの持ってんじゃん」
楽しそうな声に視線をそちらに向ければ、陽介さんが笑った。
「…そうですかね、」
本部へ向かって走り出した三雲を追いかけようとするトリオン兵を壊しながら陽介さんの隣に移動して目の前にいる数体の見たことない形のトリオン兵を指差す。
「あれ、なんですか?」
「え?知らねぇの?新型で結構強い」
「へぇ…」
で、あの出水さんと戦ってるのが今回の敵か…
あぁ、嫌だな。
人の形をしてる。
「米屋先輩、その人は?」
「榎本不吹。最近B級に上がったんだけどすげぇ強くてさ。京介のとこの白チビと互角に戦ったんだよ。アイツは烏丸京介。玉狛だよ」
「互角…?」
烏丸さんは視線をこちらに向けた。
「…ノーマルトリガーだったからです」
「またまたー、そんなこと言っちゃって」
「……指示、貰えますか。その通りに動くんで」
オペレーターからの指示は?と首を傾げた陽介さんに俺も首を傾げる。
「いませんけど」
「え?」
「オペレーター、つけてないです。本来指示をくれる上司も戦闘中みたいで。三雲の援護をってだけ言われました」
この敵を修の所に行かせたくない。
京介と呼ばれた彼はそう言って目の前のトリオン兵とネイバーに視線を向けた。
「…わかりました」
周りに人が多い。
C級隊員も付近に沢山いるようだ。
大鎌を肩に乗せ、数回屈伸をして地面を蹴った。
「ちょ、不吹!?そいつに捕まったらやべぇって情報見てねぇの!?」
「見てない…ですけど」
捕まったらヤバイなら捕まらなきゃ、いいんだよな?
振り上げられた手を鎌で斬り落として、距離を詰める。
どんなトリオン兵でも、壊すべき場所は変わらない。
周りに人が多いところで大鎌を振り回せば味方まで殺す可能性があるし。
元から接近戦の方が、自分には向いている。
顔の真下まで入って、自分の向かってくるもう一方の手の攻撃を避け、腕を踏み台に跳躍した。
下から抉るように鎌を振り上げ目を破壊して、後ろに距離を取る。
「おいおいおい、すげぇ威力だなそれ」
「迷惑なことに、そうですね」
「つーか、ちゃんと情報見とけって。新型は捕まったらキューブにされるんだぞ?」
情報ってどうやって見るんですか?
そう首を傾げれば陽介さんは目を見開いた。
「え、マジで?」
「なんですか?」
「あちゃー…本当になんも知らねぇの?」
きっと忍田さんが説明するつもりだったんたろうな。
けど、予想外の本部への侵入があったからそれどころじゃ無くなった。
オペレーター云々の話がなかった所を見ると、俺に付ける気は端からなかったのだろう。
まぁ、そりゃそうか。
俺はあの人の直属の部下だし、件の任務について知る人が増えることはリスクの増加を意味する。
付けなくて当然だ。
「今、必要な情報ってどれくらいありますか?」
「どれくらいって…京介!!どれくらい!?」
「え、結構沢山あると思いますけど…」
沢山か。
それを口頭で聞いていられるほどの、時間は恐らくない。
戦場において情報の不足や伝達されないことは日常茶飯事である。
その状況で、臨機応変に戦うことが出来なければ死を意味する。
そんな、彼の言葉を思い出した。
彼の言う戦場と、ここはきっと違うけど。
「……やめときます」
「え?」
「今その情報を聞いてることは、最善じゃない」
マジかよ、と冷や汗を流す陽介さんに俺は頷いた。
「情報はこれを壊して余裕があれば教えてください」
「…わかったよ。じゃ、さっさと片付けるか」
残る数体のトリオン兵を倒そうと鎌を構えたとき、横の建物が大きな音をたてて崩れ落ちる。
「なんだあ!?……!!そうか、こいつは…」
「なんですか?」
首を傾げたとき、上から閃光が人型を貫いた。
上を視れば三輪隊のスナイパーと黒トリ強奪の際に見たスナイパーがいた。
「…そういうことか」
上からの狙撃が始まり、目の前のトリオン兵が穴をくぐり消えていく。
「お?」
「…消えた?」
「上だ」
烏丸さんの声に上を視れば本部に新型が移動していた。
ワープのトリガー…?
チートだな、完全に…
「追いますか?」
「そうしてぇとこだけど、無理そうだな」
本部へ戻っていく光を見て陽介さんが眉を寄せた。
出水さんがベイルアウトしたのか。
て、ことは人型がフリーになる。
何か会話をする烏丸さんに意識を向けたとき、乱れた音の向こうに忍田さんの声が聞こえた。
「聞こえるか、不吹」
「はい、聞こえます」
「こちらの戦闘が終わった。今、何処にいる?」
陽介さんと烏丸さんと一緒に人型の近くに、と答えれば一瞬、彼は口を閉ざした。
「移動ばかりですまないが、本部に戻ってくれ。本部の上にいるトリオン兵を破壊し三雲君が本部へ入るのを援護しろ」
「ここはどうしますか?」
「A級が2人いるなら、足止めは可能だ。もし、抜けてきたとしてもお前が仕留めればいい」
人使いが荒いな、と思いながらも了解ですと返事を返す。
「陽介さん、烏丸さん。ここはお願いします」
「お?どっか行くのか?」
「さっき移動した新型の討伐命令です。本部へ戻ります」
俺の隊のスナイパーをよろしくな、と笑った陽介さんに頷く。
「修を頼む」
「最善は尽くします。ここではあんまり仕事出来てないんで、残ってる新型だけは破壊してから行きますね。人型はお願いします」
「おー、サンキュ」
残り1体だった新型に接近し、両手を切り落とす。
動きが止まった内に、目を破壊しそれを踏み台に跳んだ。
人型の攻撃が背中に向かってくるのが視えて、後ろに斬撃を飛ばし相殺する。
続く攻撃がないのを確認し、本部への道のりを考えた。
踏み切るにはどの建物も低すぎるし、この助走で本部の一番上には飛べない。
空にトリオン兵もいないし。
「仕方ない…忍田さん、本部の壁少し傷付けますね」
出来る限りの力で地面を蹴った。
足先の接触面だけ刃に変え壁に引っ掛けて、少しだけ斜度のある壁を駆け上る。
屋上に鎌の先を引っ駆けて勢いそのままに飛び上がり、トリオン兵へと大鎌を振り上げた。
「浅いか…」
腹部に傷を追わせたがそれは動きを止めるほどのものではないようだ。
「榎本現着。戦闘を開始します」
「諏訪隊と風間隊がそちらに向かっている。多少なら傷付けるのは構わないが、本部を壊すなよ」
「了解」
諏訪と風間…?
風間という名前は、一度聞いたような気がするけど。
残念ながら名前を言われたところで誰かはわからない。
まぁ、誰でもいいか。
「さっさと壊す…」
くるりと大鎌を回して、小さく息を吐いた。
それぞれ、別の動きをしながら接近してくる2体を避けながらこちらの攻撃の隙を窺う。
最初から目を狙いにいく方が単純だが、さっきの単調な動きのトリオン兵とは違い性能が高いのか連携的な攻撃をするトリオン兵2体を1人で相手するとなると少しリスクがあるしやりにくい。
「少しずつ、壊していくか」
▽
「なんだよアイツ…」
吐き出した言葉に隣にいた堤があれって、と小さく呟いた。
「再入隊してきた子ですよ」
「元々ぱっとしねぇ感じの奴だったよな?」
「まぁ、あまり目立つ子ではなかったですね。けど、訓練はいつも上位でしたよ」
問題があったのは対人の模擬戦だ。
「昔は模擬戦出てない…よな?」
「確かそうでしたね。訓練は一応出てましたけど毎回ではなかったし」
堤は戦う彼を見ながらそう言った。
「再入隊したら別人だったよな」
「そうでしたね。模擬戦ばっかり出てましたし」
「武器もレイガストからスコーピオンに変えたし」
今使ってるのは鎌ですけどね、と堤は言う。
スコーピオンに武器を変え、たった1週間で1000点を4000点にしてみせた。
再入隊までに彼にどんな変化があった?
何をどうすれば、あんな短い時間であんな動きが可能になる?
「…あの大きい鎌、何なんだよ」
「新型2体を相手してるし」
「黒トリガーか…?」
同じように彼を見つめる歌川と菊地原の会話を聞きながらあの大きな鎌を見つめる。
まるで死神の鎌だ。
黒い刃が厭に光沢を放つ。
もし、あれが黒トリガーなら誰があれになった?
アイツに、全てを託したのは誰だ?
少し前までC級で燻り続けてたアイツに。
「諏訪さん、どうしますか?手を貸すべきなんですかね?」
「貸せるもんなら貸してやりてぇけど。ついていけるか?あの動きに」
グラスホッパーを使わずに軽々と宙を舞い、見るからに重そうな鎌を振り回す彼に攻撃を合わせるのは正直キツいと思う。
巻き添えにならないとは言い難い。
斬撃が2体の新型の片方に当たり、動きが止まる。
その隙に彼はそれに接近し、弱点の目を破壊し上から突き落とした。
「…これで、あと1体か」
小さく彼はそう呟き、残りの1体から距離を取った。
だが、着地した彼は目を見開き慌てて下を覗き込む。
「ちょ、おい!?何してんだ、お前!!」
咄嗟に叫んだ俺の声は彼に聞こえたのだろうか。
彼は俺の声に反応を見せず、彼は舌打ちをした。
「おい、後ろっ!!」
俺と堤が銃を構え引き金を引くのよりも歌川と菊地原が武器を手に向かっていくのよりも新型が彼に飛び掛かる方が数秒早かった。
左腕を掴まれた彼は表情1つ変えず、その腕を切り捨てた。
「…急がないと、」
彼の目がすっと、細められて大きな鎌が消えた。
「おい、お前何してんだよ!!?」
目の前に迫る新型に彼は眉一つ動かさず、綺麗な笑みを浮かべた。
地面を蹴った彼は目の前の新型の攻撃を避け、目に蹴りを入れる。
そして、その勢いのまま屋上から飛び降りた。
「は!?」
動きを止めた新型が崩れ落ちて、俺は慌てて屋上から身を乗り出す。
「ちょ、諏訪さん!!」
「落ちたぞ、アイツ!!」
「見てましたから、わかってますよ!!?」
▽
地面に着地して、倒れている三雲に駆け寄る。
地面に広がる血を見る限り、出血量は多い。
『不吹!!三雲君は!?』
「ハッキリ言って、いい状態じゃないですよ。医務室の準備お願いします。すぐに運ぶので」
『わかった』
遅れて陽介さんとC級の女の子が駆け寄ってきた。
「メガネ先輩!!」
「不吹、メガネ君は?」
「出血が多いです。傷口を縛ったら、すぐに医務室に運びます。そっちの準備はお願いしたので」
わかった、と陽介さんが頷いて女の子と共に傷口の手当てを始める。
「ここは任せて、お前はやれることやって来いよ。片腕なくても関係ねぇだろ」
「…確かにそうですね。じゃあ、三雲のことお願いします」
忍田さんに次の指示を仰ぎ、俺はその場から離れる。
両目を堅く瞑って、息を吐き出してもう一度その目に目の前の景色を映した。
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