09
御幸さんと付き合うことになっていくらかか過ぎた頃。

御幸さんの家にお邪魔していた。
まったりとしていた私たちの会話を邪魔したのは彼の携帯の音。
メールだ、と呟いて携帯を開いた御幸さんがゆっくりとこちらを見た。


「なまえちゃん」
「どうしました?」
「俺ね、凄く嫌な予感がする」

御幸さんは口をひきつらせて、いつもと違う困った顔をした。

「どうかしたんですか?」
「いや、ちょっとね…」

ソファに腰かけていた私に御幸さんは私の髪を撫でてため息をついた。

チャイムの音が部屋に鳴り響いて、御幸さんは頭を抱えた。

「御幸ーっ!!いんだろー!?」

ここで待ってろと言って玄関に歩いて行った御幸さんを見送る。

「うるせぇよ、バカ」
「ヒャハッ元気そうじゃねぇか!!」
「倉持…」

随分と騒がしい玄関を覗けば数人の男性がいた。

「御幸さん、ご友人ですか?」
「なまえちゃん…一応友人なのか…?ほら、話したろ?部活仲間の」
「は?誰あの子!?」

目を見開いた彼らに私は首を傾げて、御幸さんは大きな溜息をついた。

部屋のなかに彼らを招き入れて、ソファに腰かける。
隣には御幸さんが座ってごめん、と呟く。

「その子紹介しろよ!!御幸」
「…えっと…」
「御幸さんお付き合いさせてもらってるみょうじなまえです」

言葉を詰まらせている御幸さんの代わりにそう言えば彼らは目を丸くした。

「か、彼女…御幸に!?」
「いい加減俺が年上だって学べ、沢村!!」
「へぇ…御幸に彼女ねぇ」

御幸さんは困った顔をして、私を見る。

「ごめん、騒がしくなりそうだし今日は帰る?」
「いいじゃないっすか!!折角だし話しません?」

さっき沢村と呼ばれた人が私にそう言ってきて。
御幸さんはまたため息をついた。

「私は構いませんよ。けど、私の方が年下なので敬語の必要はないですよ」
「今いくつなの?」

ピンク色の髪の彼が私を見て微笑む。

「あー、えっと…御幸さん」
「…うん、いいよ。言って」
「今17歳です」

彼らが動きを止めた。

「御幸…テメェ、生徒に手を出したのか!?」
「ちょ、落ち着け倉持!!」
「最低ですね、御幸さん」
「降谷お前まで…」

倉持さんに、沢村さん。降谷さんとピンク色の髪の人。
4人が御幸さんに詰め寄った。

「あ、この人は小湊亮介さん。俺の先輩ね」
「小湊さん…」
「弟がいるから亮介でいいよ。きっと俺の弟に会うこともあるだろうから」

亮介さん、と呟けば彼は微笑んだ。

「で、この子が御幸の彼女なんだ」
「いつから?」
「少し前ですね」

随分と楽しそうに御幸さんが彼らと話しているからそれを見つめながらクスクスと笑う。

「みょうじさんは御幸さんとどうして付き合っているんですか…?
「降谷さん?そうですね…傍にいてくれると言ってくれたからですかね」

降谷さんは首を傾げた。

「少し、不思議な感じですよ」
「御幸さんはみょうじさんのこと随分と気に入ってるんですね」
「気に入られてる…みたいですね」

御幸さんはくるりとこちらを向いて私の名前を呼んだ。

「なまえちゃん、なまえちゃん!!」
「なんですか?」
「俺といるの幸せ?」

御幸さんの後ろでにやにやと笑う倉持さんと沢村さん。
小湊さんは楽しげに笑っている。

「幸せですよ」
「俺も、幸せ。…ほら見ろ!!俺が無理矢理付き合わせてるわけじゃねぇだろ!?」
「御幸には勿体ねぇ美人だな」

それから何人も御幸さんの友人が部屋に押し掛けてきて。
困った顔をしながらも楽しそうに御幸さんは笑っていた。

「なまえちゃん、ありがとね。俺を受け入れてくれて」
「傍にいたいと御幸さんが言ってくれたから」
「この人たち、きっとなまえちゃんが知ってる大人とは違うから。もし、よかったら仲良くしてやって」

私は随分と視野が狭くなっていたらしい。
こんなにいい人が沢山いたなんて…私は知らなかった。

「御幸さん。いや、一也さん。私…出会えてよかったです。一也さんに」
「うん、俺も。なまえちゃんに出会えてよかった」
「イチャつくな、バカ!!」

彼らのツッコミに顔を見合わせて笑い合った。

「好きです」
「うん、俺も好き。大好きだよ」

少し恥ずかしそうに言った一也さんの言葉。
ただ、純粋に嬉しいと感じた。

永遠なんて望まない。
彼が許してくれる限り、私は一也さんの隣にいたい。

それが私の本音だった。
End

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