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真田さん…じゃなくて、俊平さんとお付き合いをすることになって2日。
久々に俊平さんの家にお邪魔することになった。

「なまえ姉ちゃん!!」

嬉しそうに笑って私に抱きついてきた光くんの頭を撫でてこんにちは、と言えばこんにちはっと元気な返事が返ってくる。

「ご飯たべていく!?」
「食べていくよ」
「やったっ!!」

光くんに私が真田さんの恋人となることを許して貰わないといけないと思ってはいるのだけれど、伝えるに伝えられなくて。
拒否られたら、と考えれば言葉にしにくくて。

「なまえ」

俊平さんが私の名前を呼んで困った顔をして笑った。
俊平さんも打ち明けるタイミングがないんだろう。


「パパがお姉ちゃんのこと名前で呼んでる!!」

光くんはそう言って私の手をぎゅっと握った。

「なまえ姉ちゃん、パパと仲良し?」
「え、あ…うん」
「パパね、本当に好きな人しか名前で呼ばないんだって!!」

無邪気にそう言った光くんに真田さんの顔が赤くなっていくのが見えて私はクスリと笑う。

「パパ、なまえ姉ちゃんのこと大好きなんだね!僕と一緒だっ!!僕もなまえ姉ちゃんのこと大好き」
「…私も光くんのこと大好きだよ。俊平さんも、大好き」

光くんは一緒だねっと嬉しそうに笑って、俊平さんは赤くなった顔を背ける。

「ねぇ、光くん」
「なに?」
「…私は、光くんと俊平さんと家族になれるかな?」

私の言葉に光くんは目を丸くして、すぐに笑う。

「なまえ姉ちゃんがママになればなれるよ!!」
「…私は、光くんのお母さんになってもいい?」
「うんっ」

光くんはいつもの笑顔を私に向けて、ぎゅっと抱きついてくる。

「お姉ちゃんならママでもいいよ。お姉ちゃんじゃなきゃ嫌」
「…まだ、弱いしカッコいい人にはなれてないけど。私を光くんのお母さんにしてください。俊平さんと光くんと…家族になりたい」
「うんっ!!僕も!!」

ぎゅうぎゅうと私を抱き締める腕の力は強くなって、私も光くんの背中に手を回す。
そんな私と光くんを俊平さんが抱き締めて、笑った。

「今日から3人で家族だ」
「うんっ」
「はい」

分け合う温もりが心地よくて、でも少しくすぐったかった。





5年後。

私は大学を卒業して、俊平さんと正式に籍を入れた。
光くんは今年で小学5年。

毎日野球に打ち込んで、俊平さんによく似てカッコいい男の子に育っている。

俊平さんは長年の夢だったプロ入りを果たして、テレビの中で活躍している。
ずっとスカウトされていたけど光くんを一人で育てていかなければいけないからと断っていたらしい。

「母さんっ」

いつのまにか光くんは私を母さんと呼んで、俊平さんを父さんと呼ぶようになった。

「どうしたの?」
「今日、父さん帰ってくるんだよね?」
「うん。そろそろ帰ってくると思うよ」

光くんは俊平さんが帰ってくると飽きもせず野球を教えてもらって。
私はそれを眺めてクスクスと笑っていた。

チャイムの音が聞こえて光くんが玄関に走っていく。

「父さん!!おかえり」
「ただいま、光」
「おかえりなさい」
「ただいま、なまえ」

俊平さんは私の頬にキスをして微笑む。

「会いたかった」
「私も会いたかった」
「俺がいるのにイチャイチャしないでよ」

少しだけ恥ずかしそうな光くんにごめんね、と笑ってリビングに向かう。
いつもより豪華な料理もテーブルに並べれば俊平さんと光くんがよく似た顔で目を輝かせた。

「「うまそうっ」」
「手、洗ってきてね。そしたら食べようか」
「うん!!父さん早くっ」
「あぁ」

2人の背中を見つめてクスクスと笑う。

「なまえ?」

それに気づいた俊平さんがこちらを振り返って首を傾げた。

「どうした?」
「なんでもないよ」

私はまだ母さんのようにはなれてないけど。
2人が私を受け入れてくれるからここで家族として、母親として笑っていられる。

「早く手、洗ってきて」
「あぁ、わかってるよ」


―――……


ご飯を食べているときに思い出したように光くんが口を開く。

「今日な、野球のチームの奴が母さんのことスゲェ綺麗って言ってた」
「え?」
「なまえは俺のだって言っとけ」

俊平さんはそう言って私の頭を撫でて、頬にキスをする。

「あーもうっ、イチャイチャすんなっ」
「悪い悪い」
「さらっと言われると恥ずかしいなー…」

私は苦笑して、俊平さんは満足げに笑った。
光くんも呆れながらも笑って。

この笑顔の溢れる空間が私は大好きだ。
End

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