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「なまえ姉!!」
「おはよう、よーちゃん」

彼は嬉しそうに笑う。

「…それじゃ姉弟にしか見えないね」

よーちゃんの後ろにいた小湊はそう言って笑う。

「ひどいっすよ、亮さん!!」
「いや、なまえ姉によーちゃんじゃねぇ…」

御幸くんもそう言って苦笑する。

「御幸、てめっ!!」
「ハッハッハッだって、事実だろ?」

言い合いを始めたよーちゃんと御幸くんを見ながらため息をついて。

「洋一」
「え…?あ…」

目を丸くしていたよーちゃん改め洋一は凄い勢いで私に飛び付いてきた。

「なまえ!!」
「ここ、廊下だから」
「御幸くんも小湊も苦労をかけたね」

抱きついている洋一を剥がして笑う。

「それは?」
「多分本音だよ?」
「胡散臭いんだけど、みょうじのそういうの」

失礼なこと言うよね小湊って言えばお前もだろと返された。

2年の階のところで洋一と御幸くんと別れて小湊と教室に向かう。

「まさか、こんな風になるとはね」
「そうだね」

足を止めて、窓の外に視線を向けた。
真っ青な空。

「みょうじ?」
「やっと雪がやんだ」
「そ。よかったね」

長い髪を指で撫でて、そうだと言葉をこぼす。

「何?」
「髪、切ろうかなって。きっともう隠す必要はないから」
「いいんじゃない?」

止めた足を動かして教室に入る。

「ねぇ、みょうじ」
「なに?」
「部活見に来なよ。バイト休みの日にでも」

突然の言葉に目を丸くしてでもすぐに笑う。

「そうさせてもらうよ」





短くなった髪を洋一は酷く気に入っていた。
小湊も悪くないんじゃない?なんてどこか上からなことを言っていた。
御幸くんは似合ってますねと笑っていた。

「うわー、なつかしい」

2人で歩いていたのは故郷の道。
差し掛かった公園で足を止めた。

「ここさ、たくさん思い出あるよね」
「おう」
「良いことも、悪いことも。たくさん」

公園のなかに入ってあのベンチに腰かける。

「きっと、これからも。たくさん思い出ができるよ」
「…俺との?」
「他に誰がいるの?」

私の前に立って、ヒャハッと独特の笑い方をした洋一。

「俺じゃなきゃ、絶対許さねぇかんな」
「それは私の台詞」

彼の手を握って少し力を入れて腕を引く。
突然のことで驚いてバランスを崩した洋一と唇を重ねてそのまま彼を抱き締めた。

「ちょ、みょうじ!?」
「ほら、また。ファーストキスの思い出、できたでしょ?」

真っ赤に染まった洋一の顔に私は微笑んで。

「初めてじゃなかったらどうすんだよ」
「あれ、違うの?」
「違わねぇけど」

なら、いいじゃんって言えばそうだなと答えて背中に腕が回された。

「なぁ、なまえ」
「なに?」
「もう、絶対離さねぇ。死ぬまで…お前といる」

真っ赤に染まった耳が見えて、私は頬を緩めた。

「プロポーズ?」
「…おう」
「死ぬまでじゃ足りないよ。死んでからもずっと…一緒にいるんだよ」

そうだなって洋一は笑った。

「じゃあ、行くか」
「どこに?」
「なまえの母親のところ。なまえを俺にくださいって言いに行くって約束したんだ」

本人がいないとこでなんて約束してるのって言えば彼は楽しそうに笑った。

「結局一緒に行けるんだからいいんだよ」
「…そうだね」

繋がれた手に少し力を入れた。

「好きだ、なまえ」
「私だって好きだよ。ずっと好きだった。これからもずっと好き」
「…俺も」

お互いに視線を合わせて、照れ臭くなって笑った。

見上げた空は真っ青で。
遅れてやってきた春の終わりが近付き、夏がすぐそこまでやってきていた。

雪は、もうやんでいた。
End

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