01
「私、部活の邪魔は絶対にしないから…だから、私と…」
「…悪い」
「な、んで…?私、白河君が望むような女の子になるから。だから…」

聞こえてきたのは告白とはなんとも言い難い声だった。
窓から見える告白されている男の子は不機嫌そうに眉を寄せている。
女の子はそれに気付いていないのか必死に彼にすがり付いていた。

「めんどーな女…」

恋は盲目って言うけど。
好きな相手を困らせてちゃダメだろ。
小さく溜め息ついて立ち上がって窓を開ける。
驚いている2人。
俺は窓際にいる男の子の肩に手をかけて少しだけ自分の方に引き寄せた。

「ごめんねー邪魔するのは悪いと思ったんだけど」
「みょうじ…君…?」

彼女は俺を知ってるようだった。

「部活の邪魔は絶対にしないって言うけど、君が今彼の部活の邪魔をしてる自覚はある?」
「え…」
「部活の開始時刻はもう過ぎてるよ」

引き寄せた男の子は俺の方に視線を向けた。
何かを言いたげな目に微笑んで女の子に視線を戻す。

「どんなに頑張っても意味ないよ。君は彼の気持ちに気付いてない」
「そ、んなこと…」
「そんなことない?じゃあ今の状況は?」

彼女は唇を噛んで、俯く。

「みょうじ君には関係ないっ!!これは私と白河君の問題で」
「確かに関係ないけど。困ってる子は放っておけないよ」
「困ってなんかないよね?白河君…」

男の子は眉を寄せて、溜め息をつく。

「しつこいよ、お前。俺…部活行きたいんだけど」
「っ!!ひどいっそんなこと言わなくてもっ」
「言われるようなことしてるって自覚した方がいいんじゃない」

彼は冷たい視線を彼女に向ける。
彼女は涙を溜めて、俺達に背中を向けて。
走り去っていく女の子を見送って彼の体から腕を離す。

「勝手にごめんね」
「いや…助かった」
「白河、君?君、女の子嫌いなんだね」

さらさらと揺れる彼の髪。
綺麗な髪だなぁ…

彼は何かを言おうと口を開く。

「ねぇ…」
「あ、白河君。部活平気?」
「あ…平気じゃない。…ありがとう」

彼は頭を下げて足早に部活に向かう。

「彼…何部だろう?」

ま、いいか。
地面に置いていた鞄を肩にかけて腕時計に視線を向ける。

「俺もそろそろ行くか…」





部活の邪魔は絶対にしないから、これが女の常套句。
これに騙されて苦労した奴らを何度も見てた。
自分もそういう状況に何度かなったけどここまでしつこいのは初めてだった。

人の話は聞かないし勝手に俺の腕に触れて。
正直虫酸が走った。

そんなとき突然後ろの窓が開いた。

男の俺から見ても綺麗な顔をしていて。
俺の体を軽く抱き寄せた彼からは檸檬みたいな香りがした。

「みょうじ…?」

確か、そう呼ばれていた気がする。
どこか、見覚えのある顔だと思ったら、彼はよくカルロと一緒にいるやつだ。
鳴と並んで女子に人気だった気がする。
そんなやつが俺を助けたことも、女嫌いだと一目でバレたことにも驚いた。

まぁ、次に会ったときにはお礼をちゃんと伝えようと心のなかで決めて。

「白河、告白されたってホント?」

部活に行った俺に目を輝かせながら駆け寄ってきた鳴。

「まぁ…」
「可愛かった?付き合うの!?」
「別に。…付き合わない」

なんだよ、と口を尖らせた鳴。
話を聞いていたカルロスが鳴の頭を軽く叩いた。

「馬鹿。白河は女嫌いじゃねぇか。付き合うわけねぇだろ」
「えーっ、そうだけどさー…運命の出会いとかしちゃうかもしれないじゃん?」
「そんな少女漫画みてぇなこと起きるかよ」

つまんないの、と鳴は言って練習に戻っていく。

「で?大丈夫だったのか?」
「今回はいつも以上にしつこかった。けど、途中で助けられた」
「誰に?」

お前がいつも一緒にいるやつ、と言えばカルロスは首を傾げる。

「なまえ?」
「下の名前は知らない。みょうじって呼ばれてた」
「なまえだな、確実に」

なまえがなぁ、とカルロは少し驚いていた。

「そういうことあんましねぇんだけどな、あいつ」
「そうなの?」
「あんま人と関わりたがらねぇし。優しく見られがちだけど冷たいし」

まぁ、よかったなとカルロが笑う。

「ホント、疲れた」
「お疲れさん」
×

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