02
彼に助けられて少しして。記憶の中の彼の顔がぼんやりしてきたとき、覚えのある香りが鼻孔をくすぐった。
足を止めて周りをみれば、多分彼がいた。
その隣にはカルロ。
声をかけるか悩んで2人の背中を見つめていれば階段に曲がろうとしていたカルロがこちらを見た。
「あれ、白河じゃねぇか。どーした?」
「委員会の連絡で」
「お疲れ。あ、おいちょっと待て」
カルロは階段の方にそう言葉を吐いて、俺はそちらに近づく。
「ついでだから雅さんからの伝言頼んでいいか?残り鳴のとこだけなんだけど」
「…別にいいけど」
伝言を聞いていれば階段を上る足音がして、ひょこと顔を出した彼。
「シキの友達?て、あれ…?」
こちらを見た彼は目を丸くしてから、すぐに目を細めて微笑んだ。
「白河君、だよね?」
「そう。…この間はありがと」
「いーよ。俺が勝手にしただけだから」
彼は俺とカルロを交互に見てから首を傾げる。
「白河君、野球部?」
「え、あぁ…うん」
「そっか。シキみたいなのしかいないイメージ」
どういう意味だ!?とキレるカルロに冗談だよと微笑いながら両手で降参のポーズをする。
「カルロとみょうじ?は仲良いの?」
「去年も同じクラスだしね。あ、そういえば自己紹介してないね。あの時はそんな暇なかったし」
彼は俺を見て、一応自己紹介するよと言った。
「俺はみょうじなまえ。今いった通りシキと同じクラスで2年間の付き合いだよ」
「白河勝之。野球部の2年」
「勝之君ね。んー、ユキって呼んでいい?」
は?と首を傾げれば彼はやっぱりダメ?と首を傾げた。
「ダメって言うか…なんで?」
「俺、君とは仲良くなりたいから。嫌ならやめるけど。俺のことはみょうじでいいよ」
「…別に好きにしていいけど」
ありがとうと彼は微笑んだ。
「じゃあ、よろしくね。ユキ」
「…あぁ」
腹へったし飯行こう、と言って彼らが歩いていく。
その背中を見ながら首を傾げる。
「なんか、変な人」
▽
「珍しいな」
「何が?」
みょうじくーん、と女の子が手を振ってるのが見えて振り返しながら首を傾げる。
「お前が名前で呼ばせるの。俺も許可されるまで結構かかったっつーのに」
「俺、ユキみたいな子好きなんだよ」
「あっそ。つーか、いつまで手振ってんだよ」
無視したら後で面倒だろと言えば呆れたように溜め息をつかれた。
「稲実のプリンスの中身がこれとはな。誰も考えねぇよ」
「女の子たちの前じゃ望むような姿なんだからいいだろ。つーか、プリンスとか恥ずかしい」
「だろうな。ま、そろそろ交代だといいな」
成宮くんだっけ?と尋ねればシキが頷く。
「お前と違って目立つの大好きな奴」
「助かるね。早々に交代願いたいよ」
「ま、無理だろうけどな」
腕疲れた、と呟いて腕をおろす。
「野球部ってモテんの?」
「俺に対する嫌味か?あ?」
「お前もモテんじゃん」
真緒に言われても嬉しくねぇよと乱暴にかき混ぜられた髪の毛。
「ぐしゃぐしゃじゃね?」
「それでもカッコいいからムカつくよな」
「サンキュ」
髪を直しながら学食に入って空いた席を探す。
「いつものだろ?」
「よろしく。席は取っとくよ」
「そりゃどーも」
シキの背中を見送って、欠伸をひとつこぼす。
「俺ももう疲れたんだけどなー…」
そろそろ本格的に回避方法を考えるかな…
みょうじくーん、と聞こえる声に適当に手を振りながら大きな溜め息をついた。
「幸せ逃げるぞ」
「逃げるほど手元にねぇし」
目の前に置かれたラーメン。
「いただきます。溜め息つく度に幸せ逃げてたら絶対足りないよな」
「お前はな」
「幸せじゃないから溜め息つくのにそれでまた幸せが逃げるとか。鬼畜仕様だよね」
そんな考え方すんのもお前だけだ、と言われて俺は苦笑する。
「そりゃそうか」
「おう」
幸せになりてーな。
ポツリと呟けばシキは苦笑して。
「ま、無理だろ」
「だよなー…マジで、男子校行きてぇ…」
〔Back〕