14
「…なんで、キスしたときゴメンって言った?」彼を抱き締めていれば、ユキがそう呟いた。
「…ユキが離れようとしたのに、無理矢理…したから」
「それだけ?」
「うん」
なんだよ、とユキが呟いて少しだけ笑った。
「好き」
「うん、俺もユキが好き」
彼の肩に顔を埋めて、ぎゅっと抱き締める腕を強くする。
ユキの手が俺の頭を撫でてピタリと止まる。
その手は耳に触れ、頬に触れた。
「熱ある?」
「え?あー…」
体を離せばユキの手が俺の額に触れ、眉を寄せる。
「熱い」
「…ごめん」
「治ったから、来たんじゃないの?」
じっと俺を見つめる彼の視線から目を逸らす。
「俺の家、体温計ないんだよね…」
「…保健室いくよ」
ユキの言葉にコクりと頷いて、窓から校舎に入る。
「ねぇ、ユキ。治ったら…キスしていい?」
俺の言葉にユキは溜め息をついて、俺のネクタイを引いた。
「えっ!?」
重なった唇。
ユキが目を閉じて、俺も目を閉じて。
彼の後頭部に手を回して、もう一方の手を腰に回した。
「んっ」
薄く開いた唇の隙間に舌を入れて、彼の舌を絡めとる。
背中に彼の腕が回される。
「ぁ、んっ」
彼の足が震えてきて、唇を離す。
倒れそうになる彼をぎゅっと抱き締めて。
「…息、苦しいんだけど」
「ゴメン、好きすぎて…我慢できなかった」
「馬鹿じゃないの」
背中に回った彼の腕の力が強くなった。
▽
「上手く、いったみたいだな」
保健室に来たカルロが眠るなまえと俺を見てそう言った。
「まぁね」
「で?なまえは…」
「熱、全然下がってなかった」
呆れた、とカルロは言ってベッドサイドの椅子に座る。
「治ったとか言ったくせに」
「家に体温計ないから、正確にはわかんないけど。平気かな、だって」
「全然平気じゃねぇじゃねぇか…」
ホントにね、と言った白河は凄く優しい顔をしていた。
「…違かったろ?ゴメンって意味」
「うん。ホント、馬鹿みたいな理由だった」
白河はそう言ってなまえの髪を撫でる。
「寝てんのか?」
「寝てるけど」
「やっぱり、お前じゃなきゃダメだったんだな」
俺の言葉に白河は首を傾げた。
「なまえは不眠症っつーの?全然寝れねぇんだよ。家でも学校でも」
「は?」
「俺が近くにいても絶対に寝ない。お前がいるとちゃんと寝るんだな」
白河は目を丸くしてなまえを見て、大きく溜め息をついた。
「…先に、言えよ。そういうこと」
「は?」
俺の前では強がってた訳じゃなかったんだ、と白河は呟いて少しだけ嬉しそうに笑っていた。
「…ん…」
なまえがゆっくりと目を開いて、白河を見てから自分の手を見る。
「やっぱり、ユキの手だ」
ふにゃっとなまえは笑って繋がれた手を自分の頬に引き寄せてキスをする。
キザな動作が似合うのはイケメンだからだろうなぁ…
「ユキがいると…暗闇に連れていかれない」
「なに、それ?」
「何でもないよ」
体を起こして、なまえはやっと俺の存在に気づいて。
「シキ?」
「よかったな」
俺の言葉に幸せそうに笑って、繋がれた手を引いてバランスを崩した白河を抱き寄せた。
「うん、幸せ」
「なまえ、離して」
「え、ダメ?」
ダメじゃないけど、と言った白河の視線がこちらに向けられて。
「ハイハイ、邪魔者はさっさと退散しますよ」
「シキ、ありがとな」
「どーいたしまして」
ヒラヒラと手を振って、囲われたカーテンから出た。
「幸せそうで、よかったよ」
口元を緩めて、俺は教室に戻った。
▽
「ユキ…」
「なに?」
「ユキがいると…すごい、眠れる」
肩に顔を埋めたなまえがそう言って。
「…俺だけ?」
「ユキだけ」
「……なら、必要なときは俺に頼って」
彼の髪を撫でて、そう言えばうんと彼は頷いた。
「ありがと、ユキ。愛してる」
「あ、愛してるって…」
「ユキは?俺を、愛してくれる?」
真っ直ぐ向けられた視線を逸らすことが出来なくて。
俺はコクりと頷く。
「俺で、いいなら」
「ユキがいい。ユキじゃなきゃ…ダメ」
「… うん。愛、してる…」
恥ずかしくて彼の肩に顔を埋めて。
今度はなまえが俺の髪を撫でる。
「ありがとう」
彼はそう呟いて、俺を抱き締めた。
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