"俺"を殺せる?


やっぱり現れたか。
上空に見えた緑谷と爆豪の姿。
そしてそれの手を引いていくグラントリノの姿。

「あのじぃさんはいつも邪魔ばかりするなぁ」

弔くんに向かっていったリューキューに弔くんの指が確かに触れた。はずだった。
ゆっくりと落ちていく彼の姿に、この土煙の中を見渡す。

『本っ当…かっこいいぜイレイザーヘッド…』
「弔くん!」
『心喰、』

俺は今の弔くんのスピードには追いつけはしない。
弔くんもそれは分かっているはずだ。

『イレイザーヘッドがいる』
「わかってる」
『いけるか?』

即席で作ったインカム越しに言った彼に「もちろん」と答えて周りを見渡す。

『俺は大丈夫だから、暴れておいで。心喰』
「ありがとう」
『お前らも、視界に入った人間を殺せ』

土煙の中、迫り来る無数の黒い影。

「あは、いつの間に」
『電波でさっきね。イレイザーヘッド、あっち側だ』
「了解」

エンデヴァーと戦う彼から目を逸らし、弔くんに言われた方向へ走り出す。

「随分、ボロボロじゃん。先生?」
「っ!!ハートイーター!!」

無理矢理開いた目、潰れた足。
触れさえすれば、無効化であの目を閉じさせられる。

「ハートイータァァア!!!!」
「っ!?爆豪!?」

緑谷と共にいると思っていた彼の爆撃で、体が吹き飛ばされる。

「っ、」
「バクゴー!」
「アンタを落とされる訳にはいかねェし、何より。俺はコイツに用がある」

俺はお前には用はないけど?と首を傾げ土煙の中彼を見る。

「霧矢はどこだ」
「は?」
「…霧矢をどこにやったかって聞いてンだよ」

彼の口からその名が出るとは思わなかった。

「お前が攫ったんだろ」
「ハハッなに?一丁前にお友達ごっこ?」
「まだ、アイツに言ってやらなきゃいけねぇことがたくさんあんだよ」

向かってくる爆豪の爆発を無効化し、拳をいなす。

「お前が、アイツに何を伝えるって?1番初めに疑った人間が!」
「てめェが、何でそんなこと知ってやがる!!?」
「さァなんでだろうね?」

目の前にイレイザーヘッドがいるってのに、邪魔な男だ。

「いいのか?緑谷出久を放っておいて」
「てめェぶっ飛ばしてすぐに戻る。何より、てめェらは先生を無視できねぇ」
「うーん、確かに一理あるね」

刀を仕込みから抜いて「じゃあやろうか」とマスクをゆっくりと外し、笑った。

「っ!!」
「ねぇ、爆豪?」
「惑わされるな!爆豪!」

イレイザーヘッドの叫ぶような声に爆豪は苦虫を噛み潰したような顔をしながら「わかってらァ」と答える。

「爆豪は、漢字ふりがな"俺"を殺せる?」
「その面、1度はぶん殴ってやりてぇと思ってたよ!!!」
「俺は殺せるのかって聞いてんだよ」

素手と刀。
理があるのいわずもがなだ。
刀を避け防戦一方になりながらも、イレイザーヘッドに近づけないよう立ち回っているのは明らかだった。

「個性が効かなきゃ、お前は戦えない」
「っ、」

刃の切っ先が彼の頬を掠めた。

「元々分かってたンだよ!てめェが霧矢と同じ面してることなんて!」
「×××は霧矢に似てたもんね」
「×××は…てめェだろ!他人みてぇに呼んでんじゃねぇ!!」

距離をとった彼が俺を睨み舌打ちを零す。

「×××は死んだんだよ。個性の犠牲になって。俺はもう、×××じゃない」
「死んでねェ」
「殺しただろ?お前も」

爆風の中切っ先が彼の首元を掠めた。
首筋に血が流れるのを見て、今日はあの日と違って、彼を喰えるのだと思ったら口元が緩んだ。

「×××を見殺しにしたのは、お前もだろ?なぁ?爆豪勝己」
「黙れ!!」
「俺を殺して、俺を忘れてたくせに。」

爆豪が目を見開いた。

「罪から目を背けるなよ。×××はヒーローに!世間に!!そして、お前たちに殺されたんだよ」
「っ、」
「救いを求めた手を振り払ったのは確かに、間違いなく、お前たちヒーローだ」





「アイツ、お前んとこの生徒じゃ…」

肩を貸してくれていたロックロックの言葉に違うのだと答える。

「あれはハートイーターだ。……俺の生徒の霧矢は、おそらく攫われた」
「…どうゆう事だ?目の前にいるのがお前の生徒じゃないのか?」

もし、あれが。
×××を、ハートイーターを装った霧矢だったら。
本当はずっと前から、寧ろ初めから霧矢がハートイーターだったら。
そう何度も考えてしまう。
トゥワイスがいる限り、彼らが同時に存在することは容易い。
いや、違う。
霧矢が×××でないことは捜査でわかっていたはずだ。

「…霧矢は、1度疑いにかけられて…警察の捜査を受けてるんです」
「おいおい…マジかよ…」

可哀想に、とマニュアルが言った。

「敵と同じ顔じゃ、ヒーローなんて続けらんねぇぞ」
「っ、」
「ここで必ず捕まえて…やらなきゃ、」

そうだ。
ここで、アイツを捕まえればいい。
ただそれだけの話だ。
俺の生徒の、未来は邪魔させない。
そう思った矢先だった。
目の前で、ハートイーターの刃に貫かれた爆豪。
痛みに顔を歪めた爆豪を、恍惚とした笑みを浮かべ見つめるハートイーター。

「まだ、浅いか」

切っ先の血を舐めとって彼は笑う。
そしてその後ろ、方向を変えて迫り来る死柄木の姿が見えた。

「邪魔だ、イレイザーヘッド」

死んで、たまるか。
俺が殺られたら 歯止めがきかなくなる!
まだ見ててやらなきゃ、あいつらを。
卒業させてヒーローになるまでーーまだ、あいつらを。

「邪魔はお前だぁ!!!」

見せてやらなくちゃいけない、霧矢にも。
合理的で、現実を見るのはいい事だ。
けど、夢も希望も、理想論も。
お前だってもっていいんだって。
俺は、アイツがヒーローになる姿を…この目で見届けてやりたい。

ナイフを握りしめた。
だが、向かってくる死柄木を止めたのは緑谷だった。

「何で」
「死柄木が個性を使えないなら僕も戦力に!!最悪は、先生を失うこと!!ずっと!守ってきてくれた先生を…失うことです!!」
「緑谷」

あぁ、うざい、と。
地を這うような声がした。
霧矢の顔をした彼はその顔に憎悪を浮かべ、緑谷を睨みつけた。
その姿が、嫌に 重なる。

死柄木を捕縛した個性に触れたハートイーターは爆豪の攻撃も消し、刀を緑谷に向けて振り上げた。

「ぬ゛ん゛!!」

それを塞いだのは顔を血に濡らしたエンデヴァーだった。

「ありがとう、心喰。大丈夫か」
「うん、こっちはね」
「うーん、あと一手てとこなんだけどな」

てか、顔出ししてるのかよと死柄木はハートイーターの顔を覗き込む。
こっちに敵がいることなど、彼らは気にもとめてないように見えた。

「殺せないでしょ?この顔なら」
「…あぁ、たしかに。ここにいる奴らなら、尚更な…とりあえず、俺は緑谷出久に用がある」
「なら、俺はそれ以外かなァ。邪魔にならないように、立ち回るよ」

足でまといだと思ったら消して、とハートイーターは微笑んだ。
何故笑えるんだ、こんな場面で。
俺たちを視界から消して、何故死柄木だけを見つめていられる。
個性を無効化できるだけの彼が。
何故。

「身体能力も人並み外れとる。オールマイト並のパワーとタフネスだ」
「オール…マイト…」
「目を閉じない限りはその力だけです。なるべく長く保たせます」

この目を閉じたら、戦況が変わる。
だがマニュアルの水があってもあとどれだけ保つ?

「デク バクゴー来てしまったものはしょうがない…なぜかは今は問わぬ!!イレイザーをサポートしろ!バクゴー!デクを守れ!!」





ワン・フォー・オールを手に入れろ。
鈍い頭痛と共に、頭に響く声。

「ワン・フォー・オール…!!」

俺の声じゃない。
じゃあ、誰の声だ。

「俺のものになれ、弟よ」

顔に痛みが走り、そして吐き出された言葉。

弟?違う、俺は喋ってない。
じゃあ誰だ?なんて 答えは一人しかいない。
我が強すぎるぜ、先生。

「俺の力だ。俺の体だ」

あんたの幻聴にそそのかされてるわけじゃない。
あの時、考えてたんだよ。
悪の支配者と呼ばれた男でも、最後はたった一人の力にねじ伏せられる。
今まで育ててくれたこと、感謝してるよ本当に。
でも、あんたのようにはなりたくないんだ。
あんた以上になりたいんだ。

「だから、黙ってろよ。俺の意志なんだよ」

力をいなすように蹴り挙げられた腕。

「当たれば致命。逸らすに限る。デタラメなパワーの男に稽古をつけていたんでな!」

爺さんに捕まえれた腕。

「これ以上志村の思いを踏みにじるな!」
「誰だよ」
「お前の存在は俊典を…」

腕を掴まれたまま反対の手が拳を作る。
その向こうに、エンデヴァーの炎が見えた。
その2人に攻撃を入れ、その向こうに緑谷出久を捕捉する。
あいつを捕まえれば、それで終わる。

「そいつぁ餌だ!!!!」

頭上から落ちてくる爆撃。
それが、凪のように消えた。

「なっ!?」
「邪魔をするな」

そして、触れていないはずのエンデヴァーの炎も消え、ただ力任せに振り上げられた拳が体にぶつかった。

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